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目覚め

ここから露子様のターンです。

 暖かくてフワフワする。


 何故でしょう。すごく長い夢を見ていたような気がします。私は死んでしまって、神様にもう一度人生をやり直すチャンスを……いえ、罰を与えられたのでしたか?そうして、訳も解らず……うーんなんでしたっけ、何か忘れている?


「たしか、大事な勝負をしていたような」

「ようやく目が覚めたか」

「はい、おはようございます」


 私は重い瞼を上げ、まだボヤける視界で辺りを見回します。そこは木で造られたかなり広い殺風景な部屋だということが解りました。どうやら私はフカフカのソファに凭れ掛かって寝ていたようです。ん~?目の前には誰も居ませんよね?では、私は今何と喋っていたのでしょうか?頭痛にも似た症状で頭がすごく重たいですが、一生懸命に思考を巡らせる。今、私は起きているのですよね?で、私に話しかけてきた人がいると……でも目の前には誰も居ないんですよね。不思議です。私が険しい顔をしながら首を捻っていると、また声が聞こえてきました。


「ハッハッハ!後ろじゃ後ろ!」

「え、うしろですか?」


 後頭部の辺りから聞こえてきた凛とした声に反応し振り返り見て、私はあまりの衝撃に言葉が出てきませんでした。


「よく寝ておったのぉ」

「……」

「おーい、どうした?」


 そこには心配そうに私の顔を覗き込む、大きな狼の顔がありました。一気に血の気が引いていくのが解ります。これはきっと夢ですね!そうですね!おやすみなさい。


「あふん」

「こ、これ!寝るではない!気をしっかり持て!……ん?この匂いは……まさか!あぁ~……」

「ママ!お姉ちゃん目~覚めた~?あっ!」


 あちゃ~……と言う声と小さな子供のものであろう可愛らしい声が聞こえたと同時に、私はパタリとそのまま気を失いました。



 くんくん。あっ!なんだかいい匂いがします。お肉が焼けるような匂い。お腹の虫さんがクゥっと可愛らしい音をたてて鳴きます。ものすごく怖い夢を見た私は、お腹が物凄く空いていたことを思い出して、匂いに誘われる様にベッドからモゾモゾと這い出しました。


「おなか……すきました……」


 目を擦りながらベッドの縁に腰掛け、寝起きにいつも羽織っている熊さんのガウンを探す。あれ?ありませんね。ベッドのすぐ横に掛かっているはずなんですけど、ようやく私は目を開き、此処が自分の部屋でないことに気付きます。なんだか少し視界が変な感じですけど、此処はどこでしょうか?薄暗い部屋に窓から光が漏れ出しています。それを私はジィッと見つめます。木枠にガラスは無く上下に開閉するのでしょうか?木の板が棒で支えられています。御伽噺(おとぎばなし)で見たような防犯性の低い窓。ふと腰掛けているベッドに目をやり、シーツと思しき色褪せた薄い布を捲れば、大量に詰め込まれた藁が出てきました。私はその光景を見てふぅ…と息を吐き出します。人間は沢山の不思議な事に遭遇すると、逆に冷静になれるみたいです!これは……少し整理しましょう。


 私は、ええと確か……そうです!そうでした!思い出して……しまいました……。私は日本で、し…死んでしまった……んでしたね。そして、生前に徳を積んでいたらしく別の世界に輪廻転生したと。神様はそう仰っていましたね。私は縮んだ手足を見つめてこれが夢ではないことを再認識する。で、こちらの世界に来て、カラスの群れに襲われていた狼の子供を助けたんでした!あの子は!?私は確かに、紺色の小さな狼を抱いていたはず。ベッドの周りを探してみたけれど、あの子は居ませんでした。


「何処へ行ってしまったんでしょう?」


 私は、盛大に独りごちる。

 あっ!そういえば私、服を着ていますね。道理で寒くないと思いました。自分が服を着ていることに気付き、これは誰かに助けられたのだと解りました。た……助けられたのですよね?あれ?そういえば怪我もしていたような?自分の身体を擦りながら、見えている部分には怪我がないことを確認して、次に服をペロリとめくる。傷がありません。そこにあるのは流石幼児と思わんばかりの、きめ細やかで何の穢も知らない無垢な白い肌だけでした。私はここまでの状況を整理し終え、頭の中で箇条書きに起こす。


 ①私は一度、前世?で死んでいる。

 ②今いる世界は、日本があった世界とは違う。

 ③この世界で狼の子供を守ろうとして、いきなり死ぬ目にあった。

 ④今、誰かに助けられて?知らないお家に居る。


 現状を簡潔に整理し、私はベッドから立ち上がり扉の方へ歩き出します。ドタン!

 けれど、目測を誤ってしまったのか、足が縺れ転んでしまいました。何かが可怪しいです。そう思い違和感に従って、(おもむ)ろに左手を左目の位置まで持っていきます。すると本来、目玉がある筈の場所にすっぽりと指が吸い込まれてしまいました。


「えっ!?どこ!ない!無いです!私の…」


 言い知れない焦りを感じながら手を動かしましたが、どんなに探してもとうとう私の左目は見つけられませんでした。在るべきものがない喪失感と利き目の方を失ってしまったことに気持ちが沈み、少しの間その場を動くことが出来ません。鼻の奥がツーンとしてきて、残った目の下瞼に涙が溜まっていくのがわかります。俯いていたせいで、木の床にポタリと雫が(こぼ)れ、それと同時にこちらの世界へ来た際に目一杯泣いた事を思い出し、すぐに上を向き袖で涙を拭います。馬鹿!泣いたって失ったものは戻らないでしょう!と自分自身に発破を掛ける。悲しいしこの先不安もあるけれど前を向かなければ!と気丈に振る舞ってヨロヨロと壁まで這って行き、手を突きながら扉の方へ進みます。


 今、私の目の前には子供の視線には物凄く大きく感じる扉があり、恐る恐るそ~っと扉に耳を当ててみると、誰か女性の鼻歌と美味しそうな香りが隙間から漏れてきます。またもや、お腹がクゥっと鳴って、ドアノブに手を掛けようと腕を伸ばしたところで、私は重大な事に気付いてしまいました。と……届かない……。うーんと背伸びをしてもドアノブまでは全然腕の長さが足りない。何か踏み台になるものは……あっ、横に木の踏み台あったんですね。コレを使えば開けられ……。あ、あれ?そもそもこの扉を開けられたとして、なんと言って出ていけば?おはようございます?それとも、おっはよー!おなかすきましたー!ってフランクな感じでいけば良いのでしょうか?いやいや、それは恩人に対してあまりにも失礼でしょう!フランクな感じで喋る自分を想像してコレは違うなと思い直し、もう一度扉に耳を当てて外の様子を伺う。すると今度は、先程の鼻歌とパタパタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきました。


「フンフンフーン♪フンフーン♪」

「ねぇ~マ~マ~!ご飯できた~?あと、お姉ちゃん起きた~?」


 何故でしょう?このやり取りに少し既視感を覚え頭がズキンとしました。


「ん~?おかえりチルチル。こ、これ!引っ張るでない!ご飯ならもう少しで出来るから。あの子であれば……。ふふふ、さっき物音がしたから起きておるぞ。何やら扉に張り付いてこちらの様子を伺っておるよ」

「やったー!お姉ちゃーん!そこに居るのはわかってるぞー!」


 バレていますーーーー!!!!

 私が驚愕の冷や汗をかいていると、バタバタと足音が近づいてきて手前で跳躍したのか音が途切れたと同時にガチャっと勢いよく扉が開きます。

 あっ……扉に手を突いていた私は、むこう側から引かれる力に抗うことが出来ずにコロンと部屋から転がり出てしまいました。


「きゃっ!」

「おねーちゃーん!みーっけ!」


 床に突っ伏す私の顔の近くに小さな二本の足が降り立ちます。恐る恐る顔を上げて見ると、そこには可愛らしいおべべを着た女の子が立っていました。金色に輝くクリクリお目目、それに似つかわしくない厳つい眼帯が右眼に掛かっています。少し癖のある髪は黒より紺色に近いでしょうか。でも、なんといっても目を惹くのが頭の上にチョコンと乗っかっている可愛いお耳でしょう。私がピョコンと突き出たお耳を凝視していると、その子は恥ずかしそうに顔を赤らめて、手で耳を覆い隠してしまいます。これは噂に聞くアレでしょうか。獣の耳を持つ人間……たしか…そう!獣人というやつですよね?


「ごめんなさい。まだ上手に隠せなくて…」

「いえ!謝られる必要はありません。そのお耳も、とっても可愛らしくて素敵だと思いますよ。此方こそジッと見てしまいまして申し訳ありませんでした」


 私は優しくその子の頭を撫でました。すると手の隙間から、またもあの愛らしいお耳がピョコンと飛び出すのが目に入ります。本当に可愛らしいです。


「やっぱり……お姉ちゃんは優しい……」


 小さく何か呟いた女の子はモジモジしながら、さらに顔を赤らめて俯いてしまった。どうしましょう!また私が不躾にお耳を見つめてしまったからでしょうか?私達が二人でモジモジしていると急に後ろの方からガンガンガンと金物を打ち鳴らす音が聞こえてきました。


「ほら!いつまでも二人して何をしておるのじゃ!」


 私が声のする方を振り返ると、そこにはスラッとした背の高い、凡そこの世の物とは思えないほど綺麗な白銀の長い髪を一纏めに三つ編みにした美しい女性が立っていました。


「あ、あの…」

「な〜にをモジモジやっておるんじゃ!そんな事よりもご飯にしようじゃないか!挨拶はそれからじゃ!お主も腹が減っておるであろう?さぁさぁ、早う席につけ!」


 ガンガンとまたも鍋とオタマを叩き合わせながら、有無を言わさぬ口調でもって女性は私に席を勧め、ニヤリと笑いました。


タルフェ母さんは何を作っていたんでしょうね。次で明らかに


次回は料理編?(嘘)

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