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第七話




「あれ!?ソフィーさんユフィーさん…どうしたんですか!?」


僕は白昼堂々、特別隊の来客用ソファーに突っ伏す双子上司に声を掛ける。

憔悴し切っている様子で、顔色も悪い。

持っていた書類をテーブルの上に置いて二人の方へと駆けて行くと「ベルくうううん」と珍しい声で泣く。


「もう最悪…もう無理……許容量いっぱいで私はお腹いっぱい…お腹空いた」


「朝から晩まで準備準備準備……公休ってなんだっけ?」


「…ああ、新年祭の準備ですか」


僕はホッとして窓辺にある戸棚から二人とお嬢様用のカップを取り出す。

もうすぐ年末と言う事もあり、この時期は王城から城下町までで一斉に清掃をする清掃週間日となっているらしい。

一昨日は王城廊下から物置、そして兵舎内全域の清掃。

昨日は訓練所や備品の棚卸。

そして今日は城下町の清掃や広場、メインストリートの設備点検など街の中をメインに走り回っていた。

かく言う僕も先程ヴァルの居る第二地区警ら隊のお手伝いを終わらせたところだ。


ソフィーさんにはミルク多め、そしてソフィーさんには無糖で出す。


「……いただきます」


「お疲れさまです」


紅茶を一口飲んだ二人は、思い出したかのように僕の方を見て「そうだ!!!」と叫んだ。


「どうしたんですか」


「ごめん、ばたばたしててベルくんに伝え忘れてた!!」


「明日、私達家に帰らないといけないから…お嬢の事、お願いしたいんだ!!」


「そうなんですか?分かりました!」


ほっとした二人に「ご実家、近いんでしたっけ」と首を傾げると、さっきよりももっと嫌な顔になった。


「うん、近いっちゃかなり近いよ…」


「一応あれでも街の服飾屋さんだしね…仕立て屋と言うよりも最近は服飾専門のショップってグレードに上がってるらしいけど」


「へえ…呼び名もたくさんあるんですね」


二人がまたどんよりした空気をまとい始めると、ガチャリと扉を開けて入って来たフアナジア様が「二人共どうしたの」と駆け寄った。

今日は城に戻っていたからかいつもよりドレスがゴージャスで、それを見たソフィーさんは「あ!」と驚いたようにお嬢様の方を見た。


「お嬢、それうちの作品ー!」


「うん!最近、エグドリアのおば様に作ってもらったのー!」


エグドリアと言われ、さすがの僕も思い立った。

エグドリア・スカーレット。

ソフィーさんとユフィーさんのご実家で、トイートと呼ばれる貴族御用達の仕立屋だ。

その創設者の名前が、エグドリアさん。

一度お嬢様と一緒の時に挨拶をした覚えがある。


「そっか…伯母が来たんだあ」


「…あまり仲が良く無いのですか?」


突っ込み過ぎたかなと口元に手を持って行くと、ソフィーさんはお嬢様とお話し中で聞こえていなかったようだ。

ユフィーさんは苦笑して紅茶を一口飲んで言った。


「仲が良く無い訳でも、良い訳でも無いんだ。

ただ会っていない時間が長いから…なんて接したら良いのか分からなくてね」


「……そう、なんですか」


やっぱり聞いちゃいけない事を聞いてしまったんだなと、僕はしゅんと肩を落とした。

すると「そんな顔しないでよー」とユフィーさんは笑う。


「ま、顔出せとか言われないだけまだマシだよ。

僕等はここが好きだしね」


「どこかに…行かれるんですか?」


いつもの呑気なユフィーさんと少し違った様子にそう聞くが、ユフィーさんはにっこりと笑って誤魔化した。



次の日は肌寒い日だった。

朝、寮の部屋で顔を洗っていると廊下が騒がしい事に気付く。

今日は公休日で、人もまばらなので足音も話し声も良く聞こえる。


「ベルリッツ!!居るか!!」


「……団長」


「居るな、さっさと用意を済ませ寮の玄関に来るように」


団長は恐ろしい顔で僕を睨み付けると、扉を閉めて出て行った。

とても早い時間に一体何事なのだろうかと、頭を悩ませながらもどうにか着替えと支度をすませて足早に寮の玄関へと急いだ。

ユフィーさんとソフィーさんに頂いたディープブルーのロングコートを羽織って外に出ると「すまんな」と慌てた様子の団長が居た。

ちらちらと気になるのか数人がポーチで僕等を見ているのに気付くと「こっちだ」と団長は僕の手を引いた。


「どうしたんです、こんなに朝早く」


「いや…少し急を要する事態でな。

今日は公休日だな、付き合えるか」


「大丈夫ですよ、特に予定もありませんし」


そう告げるとホッとしたように「そうか」と表情を緩めた。

向かうのは厩舎の様で、団長は迷い無い足取りで一つの馬を引いた。

綺麗な黒い馬は、僕に鼻を押し付けてぶるると鳴いた。


「懐っこいですね」


「まあな、中々人と接する事も無いが」


鼻面を撫でつつ「街に出る」と言葉少なに呟くと厩舎を出て別の場所へとやって来た。

そこは王城へと続く道で、首を傾げると団長へと問い掛けた。


「あ、アルベローナ様?街に行かれるのでは…」


「団長と呼べ、街に行くが荷馬車を連結する。

少し歩くが…大丈夫だな」


「でも、僕そちらに行くのは…」


目の前には黄色いレンガが特徴の、王都セルランデが誇る城が。

真正面、本当に真正面に見えていた。

僕にとっては恐れ多い場所なのだが、アルベローナ様にとっては我が家の様なもの。

僕が構えるのも不思議に映ってしまうのだろうか。


「……今お前は私と一緒に居るのだから、誰もお前を咎める者は居ない。

居たとしたら俺からはっきりと言ってやる、安心しろ」


「団長」


前を向いたまま言い切った団長の言葉に、僕は頷いた。


団長の後ろに付いて行きながら王城側の厩舎へと向かうと、背に十字架を背負ったマントを羽織る人達が居た。

…聖騎士団のシンボルだ。


「ん?…だ、団長!?今日は公休日なんじゃ…」


「私用で来ているだけだ、そう固くなるな」


厳しい眼差しで厩舎の奥へと向かう。

その中の一人が、バタバタと近付いて来て僕の手を取った。


「ベル!」


「え?…え!?なんで君がここに!?」


振り返ると、顔の整った僕より背の高い男が居た。

危険信号、撤退、撤退と僕の中では警報が鳴り響いている。


じわりと焦った僕の右側から、黒い影が伸びて来て彼の腕に噛み付いた。


「いたたたっ!?」


「え!?」


「良い子だハイゼル」


団長はぽんぽんと黒馬を宥めると、僕を背に庇いながら「貴様は…どこで油を売っているかと思えば」と低い声で唸った。

対する彼…カミナは、視線を泳がせながら「ええと」と頬をかく。


「さっきまで先輩方と稽古の最中でして…」


「今日貴様は支部で書類仕事を命じていたはずだが?」


「いやあ!息抜き!そう、息抜きにどうかと誘われて…」


ねえ、と後ろを振り返るが。

誰一人としてカミナと視線を合わせない。


「…さっさと消えろ」


「うっ、ベル!またね!!今度会いに行くから!!」


「来なくていいからね?」


にっこりと笑みを浮かべると、先輩達だろうか。

数人の男の人達がカミナを抱えて「すみませんでしたー!!」と叫びながら去って行った。

そう言えばあれから団長に聞きそびれていたけれど、カミナの罰ってどうなったんだろう。


じっと団長を無言で見上げると「今聖騎士団の雑用係と言う名目でこき使っている」と教えてくれた。

顔を寄せて来た黒馬の鼻面を撫でて「そうなんですね」と返す。

団長なら面倒臭い彼をうまく使うだろう、安心安心とホッと一息吐き出した。


その後目的地は街の雑貨屋と言われ、僕は大人しく団長に言われるがままに馬車へと乗り込んだのだった。

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