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第六話



「ここで待つ、さっさと着替えて来い」


「すみません本当に…すぐに戻りますので!!」


そう言って兵舎へと入り、特別隊の部屋まで階段を駆け上がる。

鍵はユフィーさんから預かっていたのでガチャリと鍵を開けてクローゼットの前に移動する。

手早くドレスを脱ごうとするが、そこで僕は重大な事に気が付いた。


ドレスと言うのは中々に面倒臭い構造になっている。

まず初めに、ウエストのくびれの形を良くするためにコルセットを着用。

そして、スカートの下にペチコートと呼ばれる物を履く。

その上にようやくドレスを着るのだが…そのドレスが問題だった。

ドレスを着る際、ソフィーさんに手伝ってもらって着た事を忘れていたのだ。

…そう、このドレスは…後ろにホックがある心底面倒臭いタイプのドレスだった!!!!



「うわああどうしよう!?でも首のところにぴったり留まってるから変に引っ張っても苦しいし…あああ…」


腕の部分だけを外してドレスを脱ごうとするも、ペチコートとコルセットが邪魔をする。

これでは脱げない上に変なところから腕が出てて、どうにもおかしい。


「ど、どうすれば…」


「お前は何をやってるんだ」


「団長!!!」


一人狼狽えて居ると、扉の方から声が掛かって僕は振り向いた。

瞬間、団長は吹き出して無言で沈み込み肩を揺らす。


…僕は今の自分の姿を想像してみた。

大変、変な格好だった。


だけど、そんなに笑わなくても良いと思う。


「すまん、あまりにも見事に…ふっ」


「我慢出来ないなら我慢なさらなくても結構ですよ、アルベローナ様」


窓辺のソファーまでどうにか歩いて、僕は肩を揺らし笑いを堪えようとしている団長へと吐き捨てた。

そもそもこれを着る事になったのは、フアナジア様の勘違いと双子上司の悪戯心、そして何よりもそれを容認してしまった団長のせいだと思うんだ。

その張本人である団長は、ようやく収まったのか目尻に滲んだ涙を指で拭いながら近付いて来る。


「…今日は散々です。

パーティに出席すると言われたかと思うと女装して出席する事になりましたし、貴族様達は僕が男だと疑いもせず声を掛けて来るし変なところ触られるし、バルコニーでは男に連れ去られ男に告白される始末…そして最後はドレスの脱ぎ方が分からなくて団長…いや、アルベローナ様に笑われました」


「すまん、許せ」


いつもの怖い顔じゃなく、うっすら笑った団長を見て驚いた。

怖い顔が常なので、僕としてはただ顔の整った精悍な男性に笑みを向けられていると感じて少しだけどきっとした。

よくよく見ると、団長はすごく優しい顔をしている。

吊り上がった眉が柔らかく落ち、口角を少しだけ上げると笑みの形になる。

いや、当たり前の事なのだけど…初めて見た団長の笑顔に心臓が跳ねた。


「どうした?」


「え?あ、いえ…団長って綺麗な顔立ちしてるなーって」


「…………」


ぽかんと口を大きく開けて黙り込んだ団長を見て、僕は首を傾げる。

数瞬の後に片手で顔を覆った団長が「何を…」と狼狽えた。


「馬鹿な事を言ってないで、さっさと着替えろ」


「そうでした!あの、大変申し訳ないんですが…後ろのホックを外していただけませんか?」


そう言って後ろを向くと、団長が「動くなよ」とため息を吐き出した。

ぷちぷちとホックが解かれ、ついでにコルセットのホックとリボンも解いて貰って、僕はようやくドレスから解放された。


「あー…良かった、解放されました……」


ほっと胸を撫で下ろし、団長の方を振り向くと。

団長はすでに扉の方へと歩き出していた。


「さっさと着替えて降りて来い」


「はい、ありがとうございます、団長」


「……ああ」


困ったような笑みを浮かべ、団長は部屋を出て行った。

僕はと言えば、ドレスをクローゼットに仕舞い込んでさっさと着替えて部屋を出る。

鍵を忘れないように締めて、団長の待つ兵舎の玄関へと走った。


その後は寮に送っていただいて、お礼を言って別れた。


次の日、なにやら変な噂を耳にしたがあえて聞かなかった事と脳内で処理したのであった。

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