空について
昼休み、教室の一角に机を4つ並べてお弁当を広げる。そのお弁当の数ももちろん4つ。そのうちの1つ、重箱を広げて食べているのはクラスの人気者の1人、星乃 空 である。
「今日も飯がうまい!」
「いやー、いつも思うけど、空ってよく食べるよねー」
「それでいて、小柄でまったく太ってないっていうのが羨ましかったり妬ましかったり・・・」
「まったくもってその通り」
ほかの3人はそれぞれ普通のお弁当箱だったり、コンビニ弁当だったり、はたまたダイエット食品であったりいかにも女子高生らしい。(コンビニ弁当が女子高生らしいかどうかはここではおいておく)
その中でもやはり異色を放っているのは、3段にも連なっていた重箱を綺麗に広げている空のお弁当だろう。
1段目には白米、2段目にはこれでもかといわんばかりのから揚げ、3段目にはこれまたいっぱい詰められただし巻き卵。よくもこれだけ味に偏りのあるものを飽きずに食べれるものだ。
「太る太らないを気にしてちゃ飯はうまく感じないよー!おいしいから食べる!食べたいから食べる!」
「あーはいはい。もうわかってるから」
「早く食べないと次の授業間に合わないよ?」
時計を見るともうすでに昼休みが半分経過していた。
「お、もうそんな時間!?急がねば!」
そういうと空は残りのお弁当を急いで胃袋にかき集めた。それはもう食べ物ではなく飲み物という感覚だった。
良い子のみんなは絶対に真似してはならない。
「もぐもぐ・・・・っんぐ!?」
こうなってしまうからだ。
食べ物はよく噛んで食べましょう。
「んんん~~~~~~~っ!!」
「あーもう、ちゃんと噛まないからこうなるんだよー」
「ほら、水どうぞ」
「んんっ、・・・・・・・・・・っぱぁ!」
「いい飲みっぷりだねぇ」
「はぁ、はぁ、・・・もー他人事だと思って!・・・ごほっ」
「だって他人事だもーん」
「「ねえー」」
「そーいえばー、次の授業ってなんだっけ?」
「次って生物じゃなかった?」
「え~、生物だるいなぁ~」
食事を終え、各自次の授業の準備を始める。それは空も例外ではなかった。3人の会話を聞いて自分も生物の準備をするためスクールバックをあさる。
「私は結構生物好きだけどなー・・・っと?あれ・・・?」
「ん?どうしたの、空?」
「いや~・・・教科書忘れたっぽいな~・・・」
「それで生物好きとかよく言えたね~」
「好きなことと忘れることは関係ないしっ!」
真っ赤になりながらも反論する空。
「でもどうすんの空?あの先生忘れ物にはうるさいよ?」
生物の教師であり、空たちの担任の先生はとても厳しい先生なのだ。名前などその他のことは、後程紹介しよう。
「んー、どしよ・・・」
「今日ってC組も生物あったよね、たしか」
「・・・・!」
その言葉を聞いた空は何かにひらめいたかのように突然立ち上がって叫んだ。
「それだ!」
「まあ、そうだろうねー」
「そこまで叫ばないでも・・・。空らしいけど」
空はそんな友達の言葉にも目もくれず、もうすでに教室の入り口のところまで移動していた。
「って、空いつの間に・・・っ!」
「私、C組の知り合いのとこいってから講義室行くから!みんなは先に行ってて!」
そう言って、空はC組へと駆け出した。間もなくして廊下に先生の叱る声が聞こえたのは言うまでもない。
空の走り去った後の廊下は、実際の季節の寒さを忘れさせるような、ほんの少しの暖かさを帯びていた。
彼女は先生の声にも振り返ることはなく、
自分の目標へと、C組に向かってその足を運んだ。




