巡り巡って戻ってくる
お題:弱い悲劇 必須要素:脂肪吸引 制限時間:1時間
即興小説トレーニング
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「課長、最近ウワサになってる美容整形知ってます?」
今、私が居るのは会社帰りのいつも乗る駅のホーム。
会社では隣のデスクに座る新米社員がそんなことを聞いてきた。こんな話をするなんて私の顔が醜いとでも言ってきてるんだろうか。無神経で陽気な社員に腹が立ってくる。
「いやいや、そんな顔しないでくださいよ。最近、めっちゃ話題になってるんですって。なんでも一〇分で手術が終わる脂肪吸引らしいですよ」
「ほう、そんなものが……」
帰路に就こうと新米社員くんと電車に乗る。いつもは気付かないのだが電車の至る所にある広告をよく注視してみると、その美容整形の会社の広告ばかりが映る。一度気にしてしまうと、何処を向いても視界の端にその広告が目に入った。
「あそこの広告見て下さいよ。値段も安くて行こうか迷ってしまいますよね」
彼が指さした広告には『一〇〇〇円から受け付けております』と書かれている。だが、新米社員の君のその体格……君には必要あるのかね。
そんな話をしているうちに電車は止まり、新米くんの降りる駅だ。
「では、課長お疲れ様です! お先に失礼しますね」
新米くんはそそくさとホームを走り階段を降りていった。
「はぁ、なんだかんだ一人であと三駅先までいるのは寂しいな」
あんなのでもいなくなるといつも寂しくなるな。こんな時間の電車はガラガラでこの車両に乗っているのは私しかいなくなった。そして再び電車が出発するって時にあの女は乗ってきたんだ。
「はぁ……はぁ……間に合ってよかった……」
女は息を切らして一人言を漏らした。その言葉が私に聞いてほしいかのように聞こえた。
「となりいいですか?」
「えっ」
いきなり女が私に声を掛けてきた。周りには誰も居ないのだから私しかいない。
「いいですけど……」
「ふふ、良かった」
女は見たところ私と同い年くらいの人で三〇歳くらいだろうか。
その後、私は女と他愛もない世間話を始めた。
「あっ、そういえば」
「なんです?」
彼女と話し始めて何分経っただろうか。唐突に女は話題を切り替えてきた。
「話題の脂肪吸引ってあるじゃないですか? あれ、今度一緒に行きませんか?」
「あれって一緒に行くようなもんですか?」
「今じゃ髪を切るのと同じような感覚なんですよ」
「そうなんですか……でしたら……」
女は私を誘ってきたのだろうか。なんだかいきなりそんな話もよく分からない。だが、今じゃそんなに流行っているのか。今の若いものの話についていけるよう行ってみるか。もしかしたら、独身を卒業できるのかもしれないしな……。
◆
「ハハハ、こんなに痩せてしまうなんて。ビール腹はどこへいったのやら」
「わぁ、カッコよくなりましたよ」
その後、私は女とその美容整形へやってきた。三〇分ほどでもう病院から出れたのが驚きだ。
「では、私は今から仕事があるので」
「そうですか、ではまた今度」
「ええ、また」
私はそれからあの女に会うことはなかった。
◆
ある日のこと。私がいつもどおり会社のデスクに座ると隣の新米が話しかけてきた。
「先輩見ましたか? あの美容整形の真実」
「えっ!」
私は新米くんに聞かされた。
あの美容整形会社が食肉製造をしていたということを
「課長、ほらテレビ見て下さいよ」
そこには捕まったであろう。社員の人達が、そしてあの女が。
私のビール腹は 今