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異世界彷徨人徒然@奴隷都市  作者: U
1人目:商人
2/9

(1)


 いらっしゃいやせ、お客さん。


 へへえ、分かりやすよ、奴隷をお求めでしょう?


 いやなに、お客さんほどの冒険者サマとあっちゃあ……え? 何で分かるのかって?


 いやですよ、あっしを見くびってもらっちゃ困りやす。


 これでも奴隷都市『マルサグロ』じゃあ、ちったあ名の知れた奴隷商なんだ。


 お客さんのその……覇気? オーラっていうんですかいねぇ、並みの者じゃあござぁせん。


 何よりその若さで奴隷を買おうっていうんだ。


 ヒッヒ。


 分かりますよぉ、分かりますよお。お客さんはいずれひとかどのモノになるお方だ。


 あっしにゃちゃーんと分かっていやすからね。


 そんなお方にはナマナカな奴隷じゃ物足りねえ。


 ほら、こいつはどうでしょう。今日入ったばかり、ピッカピカの新品でございやすよ。


 髪は金糸、目は碧玉。肌は真珠の色と艶、触れば沈む柔らかさ。張り出た乳房に締まった腰。


 尻はちょいと小さいが、いやなに、お客さん次第では……ヒヒッ。


 おっと、こいつは失礼。触り心地もお知りになりたいでしょう? さ、どうぞどうぞ。好きなだけ。


 え? いい? なんと、謙虚な方ですなあ。それよりも?


 ……ははあ、なるほどなるほど。生娘かどうか気になってらっしゃる。好きモノですねえ、お客さんも。


 いえいえ、あっしはなんとも。ほらッ! お前、自分の口から言うんだよ!


 え? 乱暴するなって。何といやはや、まあ、お優しいことで。お客さんに買われる奴隷は幸せですなあ。ええ。


 ……ヒヒッ。


 それでどうです? お客さん。こいつは気に入って頂けましたかい?


 こいつもねえ、可哀想な奴なんですよ。こっからずぅっと北に行った寒村の出身でね。


 金のない家族のために自分から奴隷の道を選びまして。ヒッヒ、馬鹿とも言いますかな。


 まあこの器量ですから。買い手には困らないと思うんですがねぇ。


 あっしも鬼じゃあない。奴隷商なんて因果な職に身を落としちゃあいますが、これでも女だ。


 ……いやですよお客さん、そこは驚くところじゃありませんて。


 同じ女として、こいつの境遇には感じ入るところもある。できるだけ良いご主人に買い取って頂きたいと。


 ええ、そう思ってるんでござぁすよ。……お客さんみたいなね。


 それで、……ええ? お買い上げ頂けるんで? さすが! お目が高くていらっしゃる!


 ええ、ええ。それではお手数おかけしますがね、早速手続きに移らせて頂きたいと、はい。


 ではまずこちらの書類一式にご記入頂いて………………はい、はい。ご苦労さんでござぁす。


 はいはいそれではご注目! これなるがかの有名な、マルサグロをして奴隷都市へと成さしめた『隷属の首輪』でござんすよ。


 ではこちらをね、こいつの首に嵌めまして。お客さんの魔力を染み込ませて頂けますか?


 こちらの魔石、こいつに触れて頂いて、ちょいと魔力を流してもらえりゃあ……そら! できた!


 これでこいつぁお客さんのもんだ。せいぜい可愛がっておくんなさいよ。


 ……ヒヒッ。まいどあり。





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 ……おんやぁ? 誰かと思えばこの間のお客さん。


 何ですかねえ、まあ。ずいぶんと乱暴に。


 え? 騙された? あの奴隷処女じゃなかったって?


 へー。そいつぁーご愁傷さまでござんした。


 え? いやですよ、お客さん。あっしがお客さんを騙したって? そんなそんな。


 あっしも被害者ですよ被害者。あの娘っ子に騙されたんで。


 それによぉく思い出して下さいよ。あっしは一言でもあの娘が生娘だって言いましたかね?


 でしょう。まあ首輪を付ける前でしたからねえ。買ってもらうために嘘を吐いたんでしょう。健気じゃありませんか。


 その程度の可愛い嘘、笑って許すくらいの度量を……ですから、人聞きの悪い。やめて下さいよ。


 いくら奴隷商に囲われていたって、隷属の首輪を付ける前なら嘘も吐ける。常識じゃありませんか。


 え? それだけじゃない? 牢屋にぶちこまれて身ぐるみ剥がされた?


 ……お客さん、何したんです?


 カッとなって暴力を振るった? お客さん! そりゃあいけませんて!! 奴隷への暴力はご法度ですよお!!


 常識じゃあありませんか。


 知らなかったじゃ済まされやせんよ。ここは奴隷都市『マルサグロ』。


 奴隷の権利を最大限保証することによって、世界で唯一奴隷の売買を認められた都市。


 そう、奴隷都市『マルサグロ』なんですから。



 ゴ シュ ウ ショ ウ サ マ デ シ タ ネ 。






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 逆上し、襲いかかってきた青年は、女が予め呼んでおいた衛兵によって、あえなく捕らえられた。

 肩を落としたその背中を何の感慨も見せず眺めていた女は、しかしふと声をかける。


「そういやぁお客さん、知ってました? ここでは奴隷相手の性交渉はご法度なんですよ」


 なんせ、“奴隷都市”ですから。


 吊り上がった唇から放たれた言葉に、何を抉られたのか。暴れ始めた青年は衛兵に殴り飛ばされ引きずられていった。




 ===============================================================================





 ……おや、あんたかい。珍しいね、わざわざ店まで訪ねてくるなんざ。


 まあ入んなよ。散らかってるけどさ。


 ああ、今日ちょっとね。“おイタ”をしたお客さんがいたんだよ。ヒッヒ。


 まったく馬鹿なもんだよ、“彷徨人”ってのは。こっちの世界のことなんざ、なーんも分かっちゃいない。


 そのくせマグレでおカミに貰った力を笠にきて、自分はイッチョマエなんだと勘違いしていやがる。


 いいカモだね。ヒヒッ。


 え? お前も“彷徨人”じゃないかって? ……さぁて、どうだったかねぇ……。


 ……ヒッヒ。





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