(1)
いらっしゃいやせ、お客さん。
へへえ、分かりやすよ、奴隷をお求めでしょう?
いやなに、お客さんほどの冒険者サマとあっちゃあ……え? 何で分かるのかって?
いやですよ、あっしを見くびってもらっちゃ困りやす。
これでも奴隷都市『マルサグロ』じゃあ、ちったあ名の知れた奴隷商なんだ。
お客さんのその……覇気? オーラっていうんですかいねぇ、並みの者じゃあござぁせん。
何よりその若さで奴隷を買おうっていうんだ。
ヒッヒ。
分かりますよぉ、分かりますよお。お客さんはいずれひとかどのモノになるお方だ。
あっしにゃちゃーんと分かっていやすからね。
そんなお方にはナマナカな奴隷じゃ物足りねえ。
ほら、こいつはどうでしょう。今日入ったばかり、ピッカピカの新品でございやすよ。
髪は金糸、目は碧玉。肌は真珠の色と艶、触れば沈む柔らかさ。張り出た乳房に締まった腰。
尻はちょいと小さいが、いやなに、お客さん次第では……ヒヒッ。
おっと、こいつは失礼。触り心地もお知りになりたいでしょう? さ、どうぞどうぞ。好きなだけ。
え? いい? なんと、謙虚な方ですなあ。それよりも?
……ははあ、なるほどなるほど。生娘かどうか気になってらっしゃる。好きモノですねえ、お客さんも。
いえいえ、あっしはなんとも。ほらッ! お前、自分の口から言うんだよ!
え? 乱暴するなって。何といやはや、まあ、お優しいことで。お客さんに買われる奴隷は幸せですなあ。ええ。
……ヒヒッ。
それでどうです? お客さん。こいつは気に入って頂けましたかい?
こいつもねえ、可哀想な奴なんですよ。こっからずぅっと北に行った寒村の出身でね。
金のない家族のために自分から奴隷の道を選びまして。ヒッヒ、馬鹿とも言いますかな。
まあこの器量ですから。買い手には困らないと思うんですがねぇ。
あっしも鬼じゃあない。奴隷商なんて因果な職に身を落としちゃあいますが、これでも女だ。
……いやですよお客さん、そこは驚くところじゃありませんて。
同じ女として、こいつの境遇には感じ入るところもある。できるだけ良いご主人に買い取って頂きたいと。
ええ、そう思ってるんでござぁすよ。……お客さんみたいなね。
それで、……ええ? お買い上げ頂けるんで? さすが! お目が高くていらっしゃる!
ええ、ええ。それではお手数おかけしますがね、早速手続きに移らせて頂きたいと、はい。
ではまずこちらの書類一式にご記入頂いて………………はい、はい。ご苦労さんでござぁす。
はいはいそれではご注目! これなるがかの有名な、マルサグロをして奴隷都市へと成さしめた『隷属の首輪』でござんすよ。
ではこちらをね、こいつの首に嵌めまして。お客さんの魔力を染み込ませて頂けますか?
こちらの魔石、こいつに触れて頂いて、ちょいと魔力を流してもらえりゃあ……そら! できた!
これでこいつぁお客さんのもんだ。せいぜい可愛がっておくんなさいよ。
……ヒヒッ。まいどあり。
===============================================================================
……おんやぁ? 誰かと思えばこの間のお客さん。
何ですかねえ、まあ。ずいぶんと乱暴に。
え? 騙された? あの奴隷処女じゃなかったって?
へー。そいつぁーご愁傷さまでござんした。
え? いやですよ、お客さん。あっしがお客さんを騙したって? そんなそんな。
あっしも被害者ですよ被害者。あの娘っ子に騙されたんで。
それによぉく思い出して下さいよ。あっしは一言でもあの娘が生娘だって言いましたかね?
でしょう。まあ首輪を付ける前でしたからねえ。買ってもらうために嘘を吐いたんでしょう。健気じゃありませんか。
その程度の可愛い嘘、笑って許すくらいの度量を……ですから、人聞きの悪い。やめて下さいよ。
いくら奴隷商に囲われていたって、隷属の首輪を付ける前なら嘘も吐ける。常識じゃありませんか。
え? それだけじゃない? 牢屋にぶちこまれて身ぐるみ剥がされた?
……お客さん、何したんです?
カッとなって暴力を振るった? お客さん! そりゃあいけませんて!! 奴隷への暴力はご法度ですよお!!
常識じゃあありませんか。
知らなかったじゃ済まされやせんよ。ここは奴隷都市『マルサグロ』。
奴隷の権利を最大限保証することによって、世界で唯一奴隷の売買を認められた都市。
そう、奴隷都市『マルサグロ』なんですから。
ゴ シュ ウ ショ ウ サ マ デ シ タ ネ 。
===============================================================================
逆上し、襲いかかってきた青年は、女が予め呼んでおいた衛兵によって、あえなく捕らえられた。
肩を落としたその背中を何の感慨も見せず眺めていた女は、しかしふと声をかける。
「そういやぁお客さん、知ってました? ここでは奴隷相手の性交渉はご法度なんですよ」
なんせ、“奴隷都市”ですから。
吊り上がった唇から放たれた言葉に、何を抉られたのか。暴れ始めた青年は衛兵に殴り飛ばされ引きずられていった。
===============================================================================
……おや、あんたかい。珍しいね、わざわざ店まで訪ねてくるなんざ。
まあ入んなよ。散らかってるけどさ。
ああ、今日ちょっとね。“おイタ”をしたお客さんがいたんだよ。ヒッヒ。
まったく馬鹿なもんだよ、“彷徨人”ってのは。こっちの世界のことなんざ、なーんも分かっちゃいない。
そのくせマグレでおカミに貰った力を笠にきて、自分はイッチョマエなんだと勘違いしていやがる。
いいカモだね。ヒヒッ。
え? お前も“彷徨人”じゃないかって? ……さぁて、どうだったかねぇ……。
……ヒッヒ。