第九話 メイドさん、吸血鬼 (前)
恥ずかしい所で声をかけられて焦って服を整えてドアへ向かう。
前世の頃と違い妙に高い位置にあるドアノブを回しドアを開けると、エプロンをした15,16歳くらいなのだろうか?そのくらいの歳だろう女性が実物は見たことはないが、メイド服と呼ばれる服装で待っていた。彼女もまた西洋人っぽい風貌で、肩に届くか届かないかくらいの白髪で、充血しているわけではないのだろうが赤い目をして、現実での赤い目は失礼だけれど少し怖い。アルビノの人とかってこんな感じなんだっけ?いや、知らないけど。
あと、この人もまた服装が似合っている。日本人に限った事ではないのだろうが前世の時代でのメイド姿を見て感じた。場違いでメイド服似合ってないといった印象は感じず、サラリーマンがスーツ姿だったり、中高学生が制服を着ていても違和感がないように似合って見える。
前世の時に見たら年下で頼りないと思うはずなのだが、今だと年上の様に見え、頼りがいがある様に見えるのは身長の所為なのか、身体年齢の所為なのだろうか…?
そんな疑問を考えながら彼女に見惚れていると、さっきまで焦っていた事を忘れ冷静に戻っていた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
と首を傾げて聞かれ、ハッと自分の世界から戻った。
「あ、いえ、なんでもないです」
と慌てながら答える。答えた後に今までどのような話し方をしていたのかわからないので、とっさに敬語で話したが、口調がいつもと違うと怪しまれないか不安になる。
「昨晩よく眠れなかったのですか?目が赤くなってますよ?」
「少し疲れていたので…大丈夫です」
まさか気絶してたとは言えないので曖昧に誤魔化す。
さっき自分の容姿を鏡で確認出来なかったので気づかなかったが、目が充血してるらしい。あなたもじゃないですか?と聞こうかと思ったが、充血というよりは自然の赤目に見えたので興味はあるが、下手に話を伸ばしてボロを出さないよう聞かないでおく。
「何時も通り元気そうですし、朝食のご用意が出来ていますので準備がよろしければ、食堂にお越しください」
メイドさんは首を傾げたが、笑顔に戻してそう言った。
「分かりました」
それでは、と彼女は一礼して部屋の中から見て左側へ歩いて行き、突き当りを曲がって姿が見えなくなった。
「ふぅ…」
少し大きなため息を付く、様子がおかしいと思われないかスゲードキドキしながら話をしていたが特に問題は無さそうだった。
初対面の人との会話で妙に疲れてしまったが、早めに向かった方が良さそうだ。
女性用の服を着たことなどあるわけないので服装がコレでいいのか心配だったけれど、服に関してさっきのメイドさんは何も触れなかったのでいいとしよう。
…食堂はさっきのメイドさんは左に行ったし左で良いのかな?
とりあえず左に行ってみる事にする。
背が小さくなった所為か天井や他の物が高くなったことにすごい違和感を感じる。さっきのメイドさんも年上のように…いや今は年上なんだろうけれども前世だと年下だと思っただろう。なのに、そう感じたのは身体年齢基準に見えてるからなのだろうか?
それにしてもカーペットが敷いてあったり、西洋風の室内はホテルのようでワクワクする気持ちがしたりする。
10秒位歩いた所で左右に通路が分かれる、右側は少し広い所、昨晩は暗くて良く見えていなかったが玄関がある少し広い空間、結構広いのでエントランスって言った方がそれっぽいだろうか?見に行ってみると二階への階段もあった。まぁ多分だけれど食堂は二階じゃないだろう。ということで戻ってエントランスとは反対の方向へちょっと進むとさっきのメイドさんが待っていた。
「お待ちしておりました、食事をご用意しますので席でお待ちください。アドルフ様は先に席に着いていますよ」
「分かりました」
返事をするとメイドさんは一礼して奥の部屋へ向かって行った。
今更だがメイドさんか…家も大きいし貴族らしいし裕福なんだろう。
まだ情報が少ないので判断出来ないけれど多分そうだろう。
食堂の中に入ると結構広いようだが、客用なのだろうか?父親とさっきのメイドさんくらいしか人は見かけていないが席が16席くらいある。朝なのに地味に暗い室内は窓があるがカーテンを閉め切っていて、カーテンの下から少し漏れる太陽光が何で閉めてんだよと言いたげに光っている。