第三話 前世について
まず俺の思い出せることを整理しよう。
俺は20歳、男、無職。
自分の姿ははっきりとは思い出せないが、痩せていて色白なのは多分間違いないだろう。そして俺は絶賛二浪中の人間でクズ野郎だ。
別に二浪だからクズというわけではない、他の浪人生に失礼だろう。
何故クズだと自称したかと言うと、俺は浪人生と言ってはいるが全く受験勉強などしていない、それどころか生活の内容はニートそのものであった。
朝から晩まで好き勝手に遊び、進学や人生などもう諦めている。
親には良いように言って誤魔化して、どうにかしなければと思ってはいたが、実行に移すことはなく、いっそ事故にでも合って人生をリタイアしたいと思っていた。
そんな俺も昔からこんなでは無かっただろう。
小中学生の間は高成績で高校も県内一の高校へ進学。
家族や知り合いの中では期待されていたのだと思う。
その所為もあってか自分は頭が良いと勘違いしていた。
いや責任を擦り付けるのはやめておこう、その頃の俺は調子に乗っていたのだ。高校に入ってからその自信は木っ端微塵に粉砕された。
よくある話、自分よりも上の人間がゴロゴロと居たのである。
上を見れば見るほどやる気はなくなるもので、さらには受験勉強から開放された俺はネトゲにハマってしまっていた。
中毒って怖いね、暇な時…いや暇では無いときもネトゲに熱中して、学校では授業中ガン寝という生活を送って学校生活を放棄してしまっていた。
そんな状態だ、学校には友人一人居らず完全に孤立してしまい、誰かがこちらを見て笑っていたりと人からの視線が痛かった。ただ被害妄想なだけかも知れないし、授業中ガン寝してるぼっちを笑っていたのかも知れない。
別にいじめを受けたわけでもない、だが俺の一度砕けた結果、麻婆豆腐にしか使えない粉々になった豆腐の様なメンタルはその白い目に耐えられなくなり、中退してゴロゴロと過ごして居る内にこうなってしまっていた。
つまり、浪人とは名ばかりのニートである。
思い出せる内の自己紹介はこんな感じだろうか?
現状よくわからない事だらけなので記憶が改ざんされているのかも知れない。
そんな俺が今、別世界であろうこの世界で帝国の貴族、ハルトマン家の一人娘と言うわけだ。
俺が前世の記憶?を思い出す前、どんな娘だったのかわからない。
歳は10歳くらいなのだろうか?立った時、父の身長はとても大きく感じたのでそれ相応なのだろう。見下す時の身長はわかっても、見上げた時の身長なんぞわからない。
あと一人娘として大事に扱われたようなので、丁寧な対応を心がけるとして、人が変わったようだと思われては大変だと思ったが、どうすればいいのかわからない。どんな演者であったとしてもどんな人間かわからない人を演じるのは無理だろう。
自分が寝ていた棺桶があったのは、メインの建物から遠くにあったらしく、無人でアーチ状のレンガでできた長い廊下を今の父親に連れられていていながら、そんなことを考えていた。