第二十話 図書室
「あの…さっきまで寝てたので眠れそうに無いのですが本か何か無いですか?」
暇つぶしにも情報収集にも本は一番だろう。それにこれだけ大きな家なら本なら置いてるだろう。
「本ですか?それなら図書室にありますけど、できれば朝起きて…いえ、日中は出れなさそうですし夜に合わせるのもいいかも知れませんね」
夜に生活時間を合わせないと俺が外を気軽に出れないという事だろうか?
しかしこの人の柔軟性というかお気軽さというか…それともそこまで考えることでもないのだろうか。そう考えると俺も危機感は感じていない、現実感が無いという感じなので俺の言えた事でも無いかも知れないが。まぁ何もかもわからない状況で気を使ってはいるけれど…
「じゃあそこで時間を潰してみます。図書室ってどこにありますか?」
「部屋を出て右に行ってしばらく行くと別館があるのですが、そちらになります。ご案内しましょうか?」
「お願いできますか?」
「分かりました、こちらです」
ドロシーに案内されて1分程度歩くと図書室に着いた。
図書室のドアを開けると1階、2階、そして地下まで吹き抜けになっている。故に収納性は悪そうだが、その両端にずらっと並んだ本は迫力がある。
「おぉ…」
思わず感嘆の声を上げる。
「これだけ沢山ありますが殆どが魔導書や報告書で面白くは無いのですが…」
魔導書!こちらにしては興味を感じるが難しくて面白くないのだろうか?
入り口近くの本を手に取ってみると革の表紙と紙…前の家で読んだ本は木で出来た板だったがこの違いはなんだろう?紙は若干ザラ付いているけれどしっかりとした紙で作られているのを見るとこの世界の技術力は結構あるのだろうか?前世の世界でいつ頃に発明されたか知らないけど。
「ケニス14-霜01-ハイルプス」
手に取っていた本の名前らしいのだが内容は手書きの地図と敢えてわかりづらくしたとしか思えない堅苦しい書き方の状況報告をまとめた物のようで見ていて面白くは無い。
隣の方も見ても同じようなつまらなそうな名前ばかりで気が削がれる。
「何か勉強になる本はどこらへんかわかりませんか?」
基礎勉強的なものがあったらそれで色々わかるだろうと聞いてみる
「それでしたらあちらの方にありますが…う~ん、やっぱり人が変わったようですね。以前でしたら暴れまわって嫌がってましたよ?」
彼女は余裕が出来てきたのかそうからかい気味に言ってくる。
「あはは…」
リリーとしての記憶は無い上、精神は別人である故なんと返せばいいかと一瞬悩んだ結果、愛想笑いで誤魔化す。
やはりこの人との距離感がわからない。
こちらですねと連れて来られた所にはスカスカの本棚に20冊くらいの参考書サイズで紙製の本が置いてある。算数、歴史、魔法などの教科書的な内容の本ばかりで、試しに魔法の教科書を手に取ってみると子供っぽい汚い文字で落書きやら普通に勉強した形跡やらが残っている。内容としては魔法についての説明から書かれていて絵や書き方は子供向けを意識しているのだろうが、文章は子供のやる気を削ぐような書き方、言い回しでわかりづらそうだ。
「それでは休憩室の方に居ますので、御用がありましたらお越しください」
あ、行っちゃうの? 面倒見てくれてもいいのに…とも思うがそんなものなのだろうか? 分かりましたと返事を返して面白い本がないか物色してみる。
本といえばなんちゃら帝国の英雄伝のラスト部分が気になるし、もう一度見なおしてみるか。先にドロシーに聞いておけばよかったともう出て行ってしまった扉を見つめ、広い図書室を見渡して絶望したあと探す作業に入る。
時間があることだし、と探し始めたお目当ての本はさっきの教科書郡の中にいとも簡単に見つけることができた。「アルケニス帝国の英雄伝」港の方の家で見つけたものと革製の表紙だったもので見逃しそうになったが同じ物だろう。最後のページを開くとこちらにも同じ文章が日本語、英語、中国語、その他が書かれてた。外国人が書き写したかのような読みづらい下手な日本語には前見た内容と同じ事が書かれている。
「もしこれが読める人がいたら、アルケニス帝国の首都に来て下さい。英雄伝に書かれている事で司書に話があると王城の兵士長に言えば通すよう話がしてあります。他の人間にはこの話はしないで下さい。」
今居る帝都…多分コレに書かれている首都でいいんだよな?
多分この文章は前世の世界の人が居て、コンタクトを取ろうって事なんだろうけれどホイホイ付いて行ったら魔女狩りの様に殺されるかも知れないな。
「リリー何やってんだ?」
静かな物音一つなかった図書室に不意に背後から男の大きな声がして心臓が止まりそうになった。
後ろを振り向くと少し長い茶髪を左右に分けた軽薄そうな25歳くらいの男がニヤニヤとした笑みを浮かべている。個人的に関わりたくない人物上位のお調子物タイプの人間だろう。
記憶喪失だという事を知らないで声を掛けてきた男に何だコイツ?といった視線を向けていた俺の元へ近づいてきた。
「おいおい、どうした元気無いな?恥ずかしいモンでも見ててお邪魔だったか?」
こちらの様子が何時もと違うと気づいたのかからかい気味に言ってくる。
あーいやその…と関わりづらい知り合いであろう男にどう説明しようか考えているとこっちを他所に話始める。
「1年ぶりくらいか?ネリスに引っ越してたんだったか?随分雰囲気変わったなー眠いのか?」
こっちは一言も話していないのにペラペラと話してくる。
「いや、記憶喪失でして」
なんと言うべきかわからないので説明しなくても済む万能札である記憶喪失宣言をする。
「記憶喪失?じゃあ俺もわからないのか?」
普通だったらバッサリ笑い飛ばすだろうが俺の態度が以前と全く違うからか疑い気味に聞いてくる。
「すみませんが…わかりません、それでこっちの家の方がいいだろうということで」
そう事情を説明する。
「はぁ、そうなのか。えぇと俺はトーマス・コルトって名前だ。王城の司書をしていてフーゴおじさんの知り合いでここに住ましてもらっているんだ。」
こっちの事情を知った途端さっきのチャラ男はどこへやら真面目そうに自己紹介をした。
文字数少ないからもう二十話か…
もう少し多い方がいいでしょうか?




