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第十五話 夜の馬車道中、帝都

目を覚ましたら馬車の外はもう日が落ちていて室内灯がゆらゆらと光っている。

馬車の外は一寸先は闇といった様子で室内から漏れる光が届く範囲外は木のシルエットや、草が揺れる波くらいしかわからない。馬車の先頭は先を照らす光があるようで、窓から前を見ると釣竿の様なものに吊るされたランタンがゆらゆらと揺れ、その度にぼんやりとした光が大きく動く。馬の足音と昼とは違う涼しい風が通る音が心地よく、ぼんやりとした室内灯の火を見ていると気分が落ち着く。


火の柔らかい光と自然音、それと道の凸凹で揺れる車内は熱い昼とは違いとても居心地が良く、これでコーヒーがあれば完璧である。ドロシーも寝ているし、起こさないよう窓から見える夜空と街道まわりの風景をみながらぼーっとする。


前世の頃には存在しないだろう幻想的な風景に夢じゃないかと錯覚させられる。

こう落ち着いて今を考える時間が忙しなかった所為で無かったので現状のありがたみがよく感じられ、やり直しである来世の今を楽しめる。深夜テンションという奴なのだろうか?やたらワクワクする気持ちが湧いてきて、急ぎたい感じこそしないがこの面白い環境をより楽しもうという気持ちが湧いてくる。


大体1時間くらい経ったのだろうか?ぼーっとしていたり寝起きは早く時間が経つものだからもっと時間が過ぎたのかもしれないし、そこまで経ってないかもしれないがそんな時間を楽しんでいると街道の端にライトが付きだした。何か休憩所でもあるのかとドロシーさんを起こさない様に窓から身を乗り出して外を見ると何やら特徴的なスゲーでかい時計塔とその下に大きな町が見えてきていた。塔の大きさや見える限りの灯りの規模を見るとかなり大きい町であることが予想できた。


「お嬢ちゃん起きたのかい?」

馬車の前で手綱を持ってる御者さんに声を掛けられる。

「はい、もう帝都ですか?」

「あぁあと10分って所かな。良いタイミングで起きたねぇ」

お嬢ちゃんと言われてドロシーさんの事かと思ったが話しかけられる対象者が俺くらいしか居ないのに気がついて返答する。まだ2日程度だから仕方ないとはいえお嬢さんと言われても気づけない。

「着いたら宿場か?それなら近くまで送ってくけど」

帝都にある家って言ってたから違うよな・・・?

「家があるそうなのでよくわからないです」

「家の場所知らないのか?」

「はい、初めて来るもので」

「そうか、まぁでもメイドのお姉さんは知ってるんだろ?あぁ起こしておいてくれ、そろそろ準備したほうがいいだろう」

多分ドロシーさんが知ってるだろうし、いや俺は記憶喪失で通したからアテにはされないだろ。

向かいの席で横になれるスペースがあるのにもかかわらず座ったまま寝ているドロシーの肩を揺する。

「そろそろ着くみたいですよ」

そうドロシーに声を掛けるとハッとしたように目を覚ました。

「すみません、ついうとうとしてしまい。お荷物の準備は大丈夫ですか?」

そう申し訳無さそうに言ったあと馬車内の荷物を揃え始める。

今何時か知らないが御者さんに任せて寝てもいいんじゃね?と思いつつも大丈夫だと返す。

「大丈夫です。あと家ってどこらへんですか?」

「王城の南東側…と言っても覚えてないですよね…あそこに見える時計塔の手前側です」

そう言いながら荷物を揃え終えた。

しかし記憶喪失と言ってからは記憶を取り戻す前の俺はどう答えただろうか?と返答をいちいち考えずに返せるので気を使わずにすみ、気軽に話ができる。


そう話をしているともう町の城壁の入り口に着いて、入り口の方を見るともう一グループ先に着いた商人達が持ち物検査らしきものを受けているようで時間が掛かりそうなのは目に見えてわかる。

「それじゃあここで行商人の方達と別れてレストランで夕食でも食べて家に向かいますか?」

そうドロシーに声をかけられる。別に吸血鬼は魔力さえ足りていれば飲まず食わずでも死なないらしいがこの世界のレストランや町並みにも興味があるのでそうすると返し、商人さん達と別れて町の中に向かう。別に大きい荷物以外はチェックは無いらしく普通に入れた。


城壁をくぐるとメインストリートらしき広さの道がまっすぐ進んでいて、左右に2階建ての建物が並んでいる。空は真っ暗なのだがそこまで遅い時間じゃあ無いのか、人が結構居る。主に食事処が混んでいるので夕食時なのだろうか?ほとんどのレストランが室内へ大きく開いてテラスになっている。


「お嬢様。何がいいですか?」

何と言われてもだな。スパゲッティとかと言ってこの世界にあるのだろうか?わからんので俺が好きだった食べ物が何かを聞いてそれにしよう。

「う~ん…じゃあ自分の好きな食べ物って何でしたか?」

「お嬢様はサーモンのムニエルがお好きでしたね。あとはピザでしょうか?」

ピザ…まぁ今の俺も好きだけどさ…なんか少女が食うには太りそうだな。

「じゃあピザでどうですか?」

「分かりました。家までの道中に良い店でも探しましょうか」

ピザ屋を探す事に決まった。

町の雰囲気、海外に来たような雰囲気を味わいながら歩を進める。

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