第十一話 英雄伝の本
先に朝食を食べ終えた父はそれじゃあ行ってくると一言言って先に出て行った。
そこまで腹が空いているわけでは無かったので、食事があまり進まない。
地面に届かなくなった足をふらふらと揺らしながらバターがなく、手の進まないパンを紅茶で流しこんで完食する。さっきのメイドさんがやってくれるだろうし、皿をそのまま放置して自室へ戻る。
しかし、吸血鬼と言われてもまったくそれっぽさを感じない。
吸血鬼の特徴である長い犬歯も今触った感じ別に長いわけではないだろう。
歯並びも前世と比べるよう意識しなければ別に違和感などない。
鏡か何かでどんな風に自分が見えるのか確認しようとして今朝鏡に映らなかった事は鏡の所為ではなく俺が吸血鬼だからでは?と思い当たる。
うん?確か鏡に限らず反射するものすべて映らなかったよな…ということはせっかく女の子になれたのに外見がわからないという致命的状況って事か?いや絵でいいだろうし、カメラがあるならそれでいいだろうけど何か残念だ。
まぁ気を落とさずにこの世界の事について勉強してみよう。色々この世界の常識がわからなすぎて話がしづらいったらありゃしない。
とりあえず吸血鬼の事は乗っては無さそうだが部屋にあった「アルケニス帝国の英雄伝」でも読んでみよう。また誰かに合いそうで部屋から出るのが不安だし。
床に転がったままの昨日見つけた三冊を手に取りベッドに腰掛ける。薄い木材で出来た本の中でもこの本だけ古いらしく、本の端がささくれていて、手に刺さりそうで地味に怖いので気をつけながら「アルケニス帝国の英雄伝」の表紙を開く。絵本の様にページの三分の一に絵が書かれているが、文章は子供向けとは思えない堅苦しさで、表紙の絵は童話っぽかったのにもしかしたら堅苦しい内容なのかもしれない。
「アルケニス帝国が建国されるきっかけとなった事件を知らない者は居ないだろう。かつて存在した魔王レインミルトン率いる魔王軍が起こした動乱『ネイザークライシス』によって世界全土の国が滅ぼされた際、魔王軍を倒した英雄達によって建国された国である。」
そんな感じの話をパラパラと流し読みしていく。
よくある話、魔王に侵攻されたらしい。それを華麗に撃退した勇者と愉快な仲間たちが戦争でボロボロな世界を復興するために建てたられた国の一つがこの国らしい。年表が無いのでいつ頃の事かはわからないが戦争があったことなど微塵も感じさせない町並みを見るに数十年は経っているのだろう。
それでその英雄達が結構狂った連中で、目に見えない速さで剣を振り回して軍隊を一人で壊滅させたり、大量の隕石作って敵の城に振らせたり、何百何千という数の武装した人形を使役して突撃させたり、最終的に魔王を城くらいある太さのレーザーで山ごと消し炭にしたそうだ。
ついでにその魔王を消し飛ばした魔法使い兼勇者さんは現皇帝らしい。それと今住んでいる街の名前の元で首長のネリスさんは仲間の一人らしい。この本何時発行か知らんけど。
読んでみた感想、物語調で前世の映画や小説、漫画と同じよう現実味がなくて生活を送る分の常識などの参考にはならない内容だった。それよりも気になる物があった。最後のページに日本語、英語、中国語、あと何語かはわからないが数カ国語、すべて前世の世界の言語だろう見覚えのある文字でこう書かれていた。もちろんこの中じゃあ日本語と英語しか読めんがな。
「もしこれが読める人がいたら、アルケニス帝国の首都に来て下さい。英雄伝に書かれている事で司書に話があると王城の兵士長に言えば通すよう話がしてあります。他の人間にはこの話はしないで下さい。」
つまりコレはあれか。他にも元地球人の皆様がいらっしゃるという認識でいいのだろうか?それとも前世の世界とコンタクトが取れたりするのだろうか?状況がよくわからない現在、行ってみるべきなのだろうか?それとも状況わからないからこそ警戒すべきなのだろうか?まぁとりあえず吸血鬼としての勝手がわからない今、下手に動けないし考えておこう。




