病み上がり
「んー……」
アラームの音で起こされた。いつもの朝。そうだったのだけど、今日は病み上がりでいつも通りに行けるかは、寝起きの調子次第だ。
「……」
大輝はまだ寝ている。アラームの音うるさいのになんで起きないんだよ。起きれないんだよと思いつつも体を起こし、窓から景色を覗く。
「いい天気」
緑いっぱいが広がる山。その上に赤の電波塔が乗っている。雲はあるが、穏やかな朝日だった。病み上がりにはちょうどいい。
「……なんでこんなアラーム早いんだよ」
時刻は6時30分だ。早起きしたい気持ちもわかる。でもそのエゴで俺を巻き込まないで欲しい。普通に寝ていたい。ま、でもそんなに気分も悪くない。大丈夫そうだ。
「散歩でも行こう。どうせ暇だし」
浴衣姿のまま部屋から出る。草履のせいで歩きにくいが、足音が心地良い。横に細長い廊下をちょっと歩いて、エレベーターの前に陣取る。ここのエレベーターは遅い。来ても人数がいっぱいで乗れない。
「あ……どうぞ……」
まただ。エレベーターに乗っていた人がお辞儀をする。日本人はペコペコするイメージがある。大阪はちょっと例外だけど、関東は治安がいいな。
次のエレベーターが来た。脳内で数えた時間によると3分37秒くらい。乗り込んで一階のボタンを押す。エレベーターにはチラシが何枚か貼られている。鶴岡八幡宮のポスターやら、七里ヶ浜のクリーン作戦だとかね。
エレベーターを降りて、ロビーに降臨。そしてすぐさま居なくなる。自動ドアをくぐって、朝日にお出迎えしてもらう。朝イチは心地良い。
「ん〜〜っ……」
伸び。山の上のホテルなので、山、山、山だ。だから、大自然というわけだ。空気がいい。あと高度もちょっと高いので、地上よりも涼しい。朝早いことも原因だけどね。
「ふーん……こうなってたんだ」
時間が遅れ、このホテルに来たのは夜遅かったため、あまり周りの景色を見ておく余裕がなかったのだ。だから、興味深い。周りしか見ていなかった。だから、前を見ていない。
「おっと……すいません」
黒いズボンに黒いパーカーの老人。深くフードを被っているので目元だけは見えない。
その人はしばらく硬直していた。しかし、すぐさま俺の顔を覗き込んだ。
「ほー……。これが彼の……」
「な、なんですか……」
咄嗟に距離を取る。なんだこいつは。いきなり人の顔見やがって。まぁ、俺もぶつかってんだけど。
「まぁいい。人生、楽しむことだ」
それだけ言い残して去っていった。俺は足が動かなかった。何故か、特別ななにか。いや、特別と言うにはポジティブすぎる。
「は、はぁ……」
背筋が凍りそうだった。だから急な坂道を駆け登ることにした。




