黄金の国
飽きたらやめます。
和風ファンタジー×女主人公×スローライフ×戦闘
石畳の上を、かつ、かつと歩いて行く。
目的は人と会うこと。そして、あわよくばそこで定職に就くこと。
「おーいそこの、紅髪のねぇちゃん!」
「お前だよお前!食ってかねえか?新作なんだよ、牛乳団子!」
道を歩く、あたりの人間の大半は黒髪である。紅葉と似たこの色の髪は、だからこそその中でも一目を引いてしまう。
「__悪いね。ちょっと先を急ぐから。」
そろそろ訛りの無くなってきた、その言葉で軽く返す。牛乳団子。少し気にはなるが。
肩の高さで括った長い紅髪を風に揺らしながら、紅に染まった地に落ちた椛を踏みしめて歩く。和装、と言うらしい民族衣装に身を包む姿は、この一年の間に随分と様になってしまったように思う。
ここは"黄金の国"。
パッと見は、どこに黄金があるとも分からない、木造の家屋と豊かな自然。祖国から、馬車と船を乗り継いで半年ほど。
長い旅路の終わりとして選んだのは、故郷に居ても、噂程度も流れてこない、この場所だった。
「___。(まだ、かな……。)」
そう思いながら、ある店の軒先で。椀に入った茶に口を付ける。待ち合わせ、として指定されたのはこの茶屋だった。
「こんなことなら、あの牛乳団子。食べればよかったかな~……。」
思わず口からこぼれ出る。誰も聞いていないだろう、と思ったそれは。
「あん……?嬢ちゃん、いるかい。一番街の新商品のヤツじゃろ。まだ口は付けとらんぞ。」
「ぁ、はえっ?」
空色の羽織をした男に聞かれたらしい。そう言われ、差し出されたのは小さな紙袋。あの店で売っていたものと同じもので、確かに私が口にしたものと同じだ。
「え、いや、悪いですって……?!って、ていうかお金も……?!」
「いいんじゃいいんじゃ。別にその程度で困る財じゃあらん。これでもこの地の豪族なんじゃぞ、あっしは。」
というか、その口調。私と同じ程度の年齢だよね、と指摘したくなる。少なくとも見た目の上では対して変わらない。いや、そんなことを指摘できるほどの度胸もないのだけれど……。
というかその態度で豪族……えっと、私の祖国で言う、貴族?こんな場所でサボり?とも。聞きたいことは山ほどある。勿論、中々言い出せない。というか、本当に貴族であれば変に不敬をすると首を落とされかねない。
いや、こんな場所で一般人に紛れてそんなことをしている貴族がいるとは考えたくない。
だってどう接したらいいか分からないのだし……。お忍びで観光?そんな、態々それなら金持ちアピールしなくてよくない?
「何、本当は人と待ち合わせをしとったんじゃが。思ったより早う着いてしまってのう。」
「これも縁じゃ、そないな金金言うのなら、暇潰しに言の葉にでも興じようぞ。時は金なり、言うじゃろう。お前さんの時で払ってもらおうて。」
「は、はぁ……。わ、分かりました。」
ぐいぐい来る。男として、女性である私にこうして接してくる輩は、下心を感じ距離を取りたくなることが経験則として多かったが。
あまりにも特徴的な口調だからだろうか。そこまで気にならない。いや、相手のペースに乗せられているだけかもしれないけれど。
「んで。まあ単刀直入に言うが。おんし、異国モンかの?」
「あぇ?……あはは、わ、分かります~?」
「んむ、分かるとも。確かに異国モンにしては随分と達者な言葉じゃが、紅髪は珍しいからの。この辺りの紅髪の奴らは、頭ん入っとるし。ほら、あっし、豪族。」
「……ああ、はは。まあ、確かに。そうですね。色付きは、この国だとどうしても……ですか。」
「んむ。」
この国に来て。放浪しながら、はや1年。最初のころは言葉で察せられたが、今はそんなことも減ってきていた。紅髪は珍しい、というのは事実であるが。まったく居ない訳ではない。
異国の人間にとってこの国の言葉は珍しく、そして難解だ。習熟にも時間を要するが、そんな中でもある程度こうして習得できたのは。この地に訪れるまでの期間も含めて、2年弱ほど訓練したから、というのと。幸運故、私が教育を受けられる家庭に生まれられたことに起因する。
「色付きの……この地では、祈祷師と言いましたか。」
「この国には、黒髪が多い、ですもんね。」
色付き。それは髪色のあることを意味する、だけではない。この国、いや世界において、髪色は適正のある異能についてを意味する。例えば、私のような紅髪は炎や熱について適正があり、私もそれを扱える。
蒼髪なら水、茶髪なら地に関すること、と言うように。これによって扱えるようになる異能を、祖国では魔術、この国では祈祷と言うのだが。まあ、簡単に言ってしまえば存在が便利なのだ。
軍事から生活まで、さまざまなことに利用される異能……これからは、この国の言葉に合わせて祈祷と言うけれど。これらに対する適正が薄いのが、白髪と黒髪である。
「じゃの。やっぱ異国モンにしちゃ珍しいか。」
「いうとも、案外困ることはないんじゃがの。ま、それしか知らん故か。がはは、異国じゃともっと便利なのかの?」
「……どうでしょうか、差異は感じますが。」
「この地特有の文化、として。優劣を付けることは難しいかと。」
黒髪と白髪は適正が薄いが、しかしない訳ではない。この地に多い黒髪の適正の特徴。それは、肉体の頑健さである。
"黄金の国"特有の自警団である、刀という武器を持ち、重量のある鎧を装備して戦闘を行う侍や。連絡網としてこの地を素足で駆け回る飛脚など、祖国で見たことのないものは多くある。
地形も、気候も違うこの場所で祖国と同じような文化を持ち込んだ所で、それが便利として馴染めるかは、正直分からない。
「くっはは、そうか、そうか。おんし、言葉が上手いのう!」
「……恐縮です。」
「そう謙遜せんでもええわい!異国モンにしちゃ随分とこの地に染まりよるようじゃが。そげな己に対する卑屈、捨てまえばええんじゃ。」
なんだこの人。その言葉が声に出かけるが、相手は貴族。そんな言葉出してはいけない。
謙遜を美徳とするこの国で、こんな人が貴族なんて。どうかしている、と思う。私はそれに苦笑いを返すしかできないが。
最初に持っていた椀のお茶は、そろそろ無くなる。受け取ったはいい牛乳団子も、思わず話が弾み口を付けられていない。ふと時を見たのは、お互い同時だった。
「……んで、待ち人はまだかのう。ちょうど、おんしのような異国モンを待っとるんじゃが。」
「……そうですね。そういえば、私も、そろそろ時間で。」
思えばこの時まで、なんで気付かなかったのだろう。
「今日から儂の屋敷で抱えることになっちゅー、ふ、ふ……ふれい、言う女子なんじゃが。」
「まったく、異国モンの名は言い辛くて敵わんわい。」
「え?」
「おん?」
「……あの、私。」
「……私が、フレイ・アルフレアです。」
「…………柊 椛様。」
これが、これから主とする人物との、お互いに情けない出会いだった。




