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注目の的の衛生兵  作者: 宗也
第1章 出会い
3/6

第2話:野戦病院

 シユへ、私は人を助ける仕事をしています。

 配属先はヴァッサ地区、中央野戦病院(やせんびょういん)

 3日前からここで働いています。

 

 野戦病院(やせんびょういん)っていうのは戦闘地域から少し後ろに建てられている治療施設のこと。

 

 私のような新人の衛生兵はまず大きな病院で経験を積んで、その後各地へ派遣(はけん)か隊に所属するんだって。

 


「おはようございます!アンジェ二等衛生兵、只今(ただいま)着任しました!」


 野戦病院に着くや否や薬品と包帯(ほうたい)、血と人の匂いが混ざった独特の匂いが鼻をつきます。

 

「アンジェさんおはよう。ここには慣れたかな。早速で悪いんだけど、音楽室の患者さんの包帯(ほうたい)変えて、病状のチェックをして来て欲しい」

「はい!分かりました!」


 ここ、ヴァッサ地区中央野戦病院(やせんびょういん)は過去に学校として使用されていた建物をそのまま病院として使っています。

 なので、病室を教室の名前で呼ぶことが多いそうです。

 

 そして私に声をかけてきた黒髪で眼鏡をかけている男性はマサ軍医。

 とても腕が立ち、素朴(そぼく)で親しみやすい方です。


 私はマサ軍医に指示された通り、患者さんの手当てに追われました。

 

 包帯についた血は酸化の影響で茶色に変色していて

 鼻につく匂いと共に物凄い喉の渇きに(おそ)われます。

 それでも、手を止めてはいられません。

 血で固まった包帯(ほうたい)をパリパリと剥がしていくとより強い匂いが鼻を襲います。


「包帯、変えますね」

「……あぁ、」


 処置後、次の患者の元へ行こうとしたのですが、先程から喉の渇きと共に何だかお腹の調子が悪くなってきました。

 昨日何か悪いものを食べたのでしょうか。


「ううーん、」


その場で唸っていると通りすがりのマサ軍医が声をかけてくれました。

 

「アンジェさんもしかして、気分悪い?……私も昔は良くなったもんだ。多分血の匂いを嗅ぎすぎた影響だろう」


「そうだな、今は比較的落ち着いてる時間帯だし、少し休憩しておきなさい。」

「……ありがとうございます。そうします」


 休憩室のソファー、と言っても土壌(どのう)を積み上げその上に布を被せただけのもの。に寝転がった。

 

 野戦病院に来て早3日、仕事というのは思い通りに行かないことだらけで。

 戦争の悲惨さに精神的に弱る同期、絶えきれず吐き出す者につられて気分が悪くなることもしばしば。

 それでも目を逸らしては行けないと、人を助けるという意味が毎日のしかかって来る。

 私はまだ慣れない力仕事で重たくなる(まぶた)に抗えず深い眠りにつきました。


「アンジェ、アンジェ起きなさい」

「……ん?あれ、マサ軍医、」

今方(いまがた)、中央地区第1防衛ラインが激しい攻撃を受けたと報告を受けた。第1防衛ラインは半数が壊滅状態(かいめつじょうたい)。直に負傷兵が運ばれてくる。一度事務室へ復唱は要りません」

「はい!」


重い体を持ち上げて、急いで事務室へと向かった。

室内では、一等衛生兵の方々が慌ただしく動きながら話していました。


「ねぇ、第1防衛ラインが突破されたらここはどうなるの?」

「そうね、前戦が押しやられたら、野戦病院はより後方に下がってまた設備を整える。だけど、ここはしっかりとした建物だから、捨てるとなるとかなり痛いわよね……」

「それに、今から運ばれてくる隊員達、病床と薬は足りるの……?まさかトリアージとか、」


 トリアージ。

 大規模な損害(そんがい)があった時、患者さん達を怪我の程度で分け、治療の優先順位を決めること。

 ここは戦場です。今までの普通の世界じゃない。

 丸1日かけて治療を施し助けられる1人の命と、治療をすれば復帰出来る複数の命。

 どちらが優先されるかなど、私でも分かってしまいます。

 

「君達が勝手に患者の道を決めるんじゃない。余計な考え事をする暇があるのなら少しでも迎え入れの準備をしなさい」 

「マ、マサ軍医!」

「お疲れ様です!」


 少し怒った顔をしてマサ軍医が事務室に入ってきました。

 

「良いですか、トリアージを決めるのは私の役割です。それに、私は今回の被害、悪魔の手段を使わずともこの施設と隊員なら乗り越えられると判断しています」

「は、はい!」

「貴方方は、この後来る患者の容体を確認し私に伝えてください」

「はっ!」

「アンジェ二等衛生兵、貴方は既存の患者さんへの食事と見回りをお願いします」

「分かりました!」


 マサ軍医はその場にいた衛生兵全員へ指示を出していき、解散の一言で全員が事務室から出ていきました。


 日が暮れてもなお大勢の負傷兵を治療する私達ですが。

 本当の仕事は夜だと言います。

 夜の野戦病院はとても静かとはいえず。

 痛みを訴える者、シェルショックになってしまった方の叫び声や破壊行動の物音などが響きます。

 こういった患者さんには私達が夜な夜なモルヒネや睡眠薬を投与して周ります。

 本日の夜が山場である患者さんには付きっきりで看病をするので居眠りも許されない。

 勿論眠いです。

 でも人の命は変えることが出来ないので、私達が頑張りたいですね。


 軽傷の患者さんの包帯を変える為、私は病室へ足を運びました。


「こんばんは、体調はどうですか?傷の消毒しますね」

「怪我した所が痛てぇが、このくらいどうってことない。鎮痛剤(ちんつうざい)は他の奴に使ってくれ」


 この患者さんの一番の怪我は足でした。

 怪我自体は酷くはありませんが罠に当たったらしく、感染症を防ぐ為消毒を行います。

 

「……なぁ、嬢ちゃん、知ってるか?人ってな強ぇ力で地面に叩きつけられると、ボールみてぇに跳ねるんだよ」

「えっそうなんですか?」

「俺も爆風(ばくふう)で吹っ飛ばされて初めて知った。尻も背中も痛てぇしよ、その後罠にひかかっちまうし。……誰も殺せず病院送りになっちまった。同期に笑われるな」


 そう言って鼻で笑う患者さんは、苦い顔をしていました。

 

「なら、早く治して同期さん達に有志(ゆうし)を見せつけないとですね!……はい、消毒終わりました!」

「あぁ、そうだな。衛生兵さんよぉいつもありがとうな」


 その後も沢山の患者さんを診て周り、気がつけば外から柔らかい光が差し込んでいました。


「朝だ……」

「お疲れ様、アンジェ二等衛生兵」

「お疲れ様です。マサ軍医」


 いつ病室に入ってきていたのか、背後(はいご)にマサ軍医がいました。

 とても疲れたお顔をしています。


「一先ず状況は落ち着いた。数人仮眠を取らせている。アンジェくんも休んでくれ。この場は私が引き継ごう」

「すみません、お願いします」

「それと、アンジェ二等衛生兵」


マサ軍医は少し悩んだ顔をしてから言いました。


「君には明日前戦(ぜんせん)に負傷兵を回収に行ってもらいたい」

 

「私が前戦(ぜんせん)に?」

「あぁ、そうだ、しっかりと準備をしていきなさい」

「はい!アンジェ二等衛生兵承知しました!」


 最後に、シユに会ったら伝えたいことがあるんだ。

 衛生兵の腕章(わんしょう)は狙われない安全で最強な印じゃなかったんだ。

現在、3、4話執筆中です。

5、6話は視点がアンジェから変わります。

3、4話のネタバレなどはありませんので読んで頂けると幸いです。

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