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コンビニ脇に伸びる階段(1)

 菊池は大通りにあるコンビニエンスストアの前でのんびりと千紗を待っていた。

「てめぇ、この」

と、千紗が息を切らしながらも殴りかかると、その手首をあっさりとつかみ、菊池は、

「まあまあ」

と、千紗をなだめた。

「お兄ちゃんが、アイス買ってやるから、機嫌を直せ」

「え? アイス? おごってくれるの?」

千紗が思わず日本晴れのような声を出すと、菊池はあきれたように言った。

「お前って、ほんとに食い意地張ってんだな。ま、いいや、とにかく買ってやる」


 涼しいコンビニエンスストアの中で、アイスクリームのショーケースを開けて、あれでもないこれでもないと菊池とやり合いながら、千紗は、ひょっとして、これってデートに見えないか、と思いつき、なんだか急にドキドキした。

 千紗が桃の味がする薄いピンクのアイスキャンデーを選ぶと、本当に菊池は買ってくれた。なんだか、夢みたいだと千紗は思った。


 店の脇にある階段に並んで腰掛けながら、アイスキャンデーをかじる。そのひんやりとした桃の味を楽しみながら、千紗は尋ねた。

「それにしても、あたしにアイスなんて買っちゃって、お小遣い大丈夫なの?」


 隣で菊池がブルーのアイスキャンデーをがぶりと齧りながら、もごもご答えた。

「ふぉーひゅーふぉふぉふぁ・・・」

あわてて飲み込む菊池から、ほのかにソーダ水の香りがする。


「そういうことは、買う前に言えよ。どうせ気を使うなら」

「な~に甘えたこと言ってんの。末代までの呪いと引き換えなんだよ」

「ま、いずれにしろ、お兄ちゃんはけっこう金持ちだから安心しろ」

「お兄ちゃん、お兄ちゃんって、あたしより一ヶ月弟の癖に」

千紗は小声で抵抗した。


「あれ、そうなの?」

菊池は、食べ終わったアイスキャンデーの棒を、ゴミ箱に向かって放り投げた。

 棒は、きれいな放物線を描くと、ゴミ箱に吸い込まれるように落ちていった。うまい、と、思わず千紗は心の中で叫んだ。


「ふ~ん。てことは、お前五月生まれか・・・。あれ、お前、よく俺の誕生日なんか知ってんな」

「あ、あれだ」

千紗は、内心、冷や汗をかきながら言い訳した。

「さやかが言ってたんだ。今年の誕生日、さやかから、何かもらったでしょ。あの時、菊池君に何プレゼントしようかって、さやかが百合たちに相談してたの、聞いたんだ」


「ああ」

「ああって、彼女からプレゼントもらった話をしてるんだから、もう少し動揺するとか感動を新たにするとか、なんか反応することないわけ」

「いやぁ、そうかと思って。そうだよなぁ。権藤が、俺の誕生日知りたがるわけないものな。長岡の彼女だもんな」


「それは誤解。あたしは、別に長岡君の彼女じゃないよ」

「へええ」

「へええって、あたしの言うこと、全然信じてないな」

「だってそうだろ。お宅ら仲いいし、冷やかされても全然否定しないじゃん」


「それはだな」

千紗は、だんだん腹が立ってきた。

「否定するのもばかばかしいからだ。だって、下らないじゃん。仲がいいのはほんとの事だし」

「それはそれは・・・」

「でも、付き合ってるとか、そういうのじゃないもん。長岡くんは、クラスで唯一まともに話が出来る男子で、友達として気が合ってるだけなんだから。だいたい、付き合うとかそういうの、あたし大っ嫌いなんだから。なんだ、自分こそ、さやかと一緒に帰ってるくせに」

「一緒に帰ったって、一回だけだぞ」

「へえ、やっぱり一緒に帰ったんだ」

「ああ、帰ったぞ。帰って悪いか」

「悪くない!」


 千紗が大声をだすと、菊池は驚いたように千紗を見た。

「なんだよ、お前、どうしてそんなにむきになんの」

「そっちが、憎たらしいこというからだ」

千紗はぷんぷんしながら答えた。

「長岡くんとのことで、ああだこうだと勝手なこと言われるのに、うんざりしてんだ、本当は」

「俺だって、さやかと一回帰ったくらいで、ああだこうだと噂されるのに、うんざりしてるぜ」


 千紗は、おやと思った。

 ひょっとして、菊池も同じだったのだろうか。菊池も、さやかとの噂を、あたしと同じように、無視していたのだろうか。だとしたら、菊池とあたしって、案外似ているのかも。


「さやかって、菊池の彼女じゃないの?」

「別に。一回一緒に帰っただけだ」

「ふうん」

 千紗は、食べ終わったアイスキャンディーの棒を意味もなく齧った。ゆっくりゆっくり食べたつもりだったけれど、キャンディーは思ったよりずっと早く小さくなって消えていった。



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