閑話休題 『静かなる陽だまりにて』
午後の陽がまどろむ、花壇の奥。
かつて激しい争いが繰り広げられた庭の一角に、争いの影は届かない。
そこは雑草ですら立ち入らぬ、まるで草たちの“楽園”。
「今日も陽射しがご機嫌ようございますこと…」
しとやかに葉を揺らす白詰草。
その柔らかな緑のドレスには、露がまだ残っている。
「…草生えますわぁ」
「それはあなた、わたくしたちのことをおっしゃって?」
「ええもちろん!だってわたくし、今日も絶好調ですのよ~!」
テンション高く綿毛を舞い上げながら、タンポポがころころ転がって登場。
どこから来たのかは不明。だが確かに、空気が一段賑やかになる。
「……またお前か」
ピンと立った松の苗が、まるでため息のように風を受けて小さく揺れた。
「拙者の修行の場に、やかましい風を持ち込まないでいただきたい…」
「修行って何してるんですの?」
「…己を伸ばすこと。それ以外、拙者には無用の問いでござる」
「えーつまんなーい。そうやって堅苦しいから、虫にも人気ないんですわよ」
「うっ……!」
地味に傷ついた松の苗。言葉には出さないが、少しだけ背筋(?)が曲がった。
「まあまあ、お二人とも落ち着きましてよ。せっかくの日和でございますもの」
白詰草が両者の間にそっと茎を差し伸べる。
風が吹けば一緒にそよぎ、雨が降れば一緒に濡れる――そんな調和を愛する草の所作。
「ってか、あれ見ました?昨日、遠くの花壇で見かけたんですのよ…あの、黒いの」
「黒い……?」
「根がね、黒っぽかったのよ。たぶん…ナガミヒナゲシ」
風がぴたりと止まった。
「――それが本当なら……この平穏も、長くは続かぬかもしれぬな」
松の苗が小さく呟く。
「また戦が……?いやですわ、わたくし、争いごとは苦手なのに」
白詰草が不安げに葉をすぼめた。
「ふふっ、戦?そういう時こそ、私の綿毛部隊の出番では?」
タンポポが笑うが、その笑みはどこか張り詰めていた。
「……拙者、いざという時のため、鍛錬を欠かさぬ」
「わたくしは……戦場には出ませんわ。けれど、花壇を護ることなら」
「みんなさあ、草なのに語彙力あってずるいですのよ」
タンポポがころころと転がって、みんなの間を跳ね回る。
その姿を見て、松の苗も白詰草も、ふっと表情を和らげた。
「ふふっ。…たかが草、されど草ですわね」
――花壇の片隅。
何も起きない、平穏なひととき。
けれど、その小さな陽だまりの中にも、それぞれの矜持がある。
草たちには草たちの、守りたいものがあるのだ。
そしてこの静寂の先で、クラピアとナガミヒナゲシという嵐が、静かに息を潜めていた――。
《閑話休題 陽だまり草語り:タンポポ・白詰草・松の苗》
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