第5話『綿毛の逆襲 〜犬とタンポポと時々パットン〜』
風が変わった。夏の熱を引きずりながらも、空気にはどこか涼しさが混じっていた。
6ペリカは軍手をはめ直し、庭にしゃがみ込んで目を細めた。
「……また、出てるじゃん。タンポポ……」
黄色い花がぽつぽつと顔を出している。数日前、しっかり根こそぎ抜いたはずだった。
だがその生命力は、まるでゾンビ映画の敵キャラのようだ。どこからともなく蘇ってくる。
「ふふ……わたくしを抜いたところで、第二、第三のわたくしがすぐに芽吹きますわよ?」
脳内で、タンポポが上品に微笑む。6ペリカの妄想劇場は、今日も絶好調だ。
「出たわね、タンポポ幹部……まさかもう次の計画が……?」
しかもその脇には、すでに“あの白いやつ”が控えていた。そう、綿毛だ。
ふわふわとしたその姿は一見可愛らしいが、こいつが種を撒き散らす元凶である。
6ペリカがスコップを握りしめた、その瞬間だった。
「ワン!ワンワンワン!!」
「おい、やめろってば!待て待てーーー!!」
3匹の犬たちが庭に突撃してきた。パットンが庭の端からボールを放り投げたのだ。
それを追いかけて、犬たちは庭を所狭しと駆け回る。
「ちょ、ちょっと!今はダメ!走らないでぇぇぇ!!」
あたりにあった綿毛が、犬たちの勢いで一斉に空中へ舞い上がった。
ふわり、ふわり……庭中が白く染まるほどの乱舞。スローモーションで広がる惨劇。
「ふふ……風に乗って……わたくしは何度でも生まれ変わりますの。どうぞ、お覚悟あそばせ!」
「うるさーーーい!!!」
6ペリカの叫びが庭に響く。
「おーい、どうしたー?」
縁側から顔を出したのは、夫・パットン。Tシャツにジャージ姿、コーヒー片手にのんきな表情。
「犬たち、元気すぎじゃない?」
「いやいやいや、あんた何してんの!?犬たちが綿毛ばら撒いてるの!せっかく抜いたのに!」
「え?……あー、ごめん、さっき俺がボール投げた」
「お前かあああああああ!!」
彼女の絶叫に、犬たちは無邪気に尻尾を振っている。
もちろん、彼らに罪はない。だが、現実の庭では確実にタンポポが広がっていく。
「まじで終わらんわ……雑草ってさ、油断したらほんと終わるよね……」
6ペリカは深く息を吐いた。
軍手を再度締め直し、しゃがみ込む。そして、根からしっかりタンポポを抜く。
だが、その手元でまたしてもふわりと舞い上がる綿毛。
「……まじで無理。どこまで増えるの、この子たち……」
「これが……わたくしの真の恐ろしさですのよ?ふふ、甘く見ていただいては困りますわね」
「黙れぇぇぇぇ!!現実は黙っててよおおおお!!!」
地面にひとつ、またひとつと綿毛が落ちていく。
その姿はまるで、倒しても倒しても終わらない終戦なき戦争のようだった。
6ペリカの背後で、パットンが犬にボールを構えた。
「また投げていい?」
「だーかーらーーー!!やめろって言ってんでしょおおお!!」
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《第五話 綿毛記録:敗北……?いいえ、優雅な抗戦中》
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