最終話『そして、また春が来る』
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
小さな庭で始まった、草たちの物語。
ときに笑えて、ときに胸がぎゅっとなるような——そんな日々も、ついに最終話を迎えます。
最後まで「彼ら」の声に、どうか耳を傾けてください。
そして、ほんの少しでも心に何か残るものがあったなら、それが何よりの喜びです。
それでは、最終話『そして、また春が来る』
どうぞ、お楽しみください。
庭は静まり返っていた。
草たちの戦争は終わった。どちらが勝ったとも、負けたとも言えない。
ただ、そこには、確かに「終わり」があった。
6ペリカはゆっくりと足を踏み入れる。
そこには、見慣れたはずの庭が、もうなかった。
「あら……」
焼け跡のような乾いた地面。裂かれた花壇。
クラピアは半ば枯れ、ナガミヒナゲシは風に吹かれて倒れていた。
かつて賑わっていた色とりどりの命の舞台は、今や灰色の静寂に包まれていた。
6ペリカは膝をつき、土に手を添える。
「あなたたち、何が……こんなに……」
風が吹き抜ける。彼女は一瞬、かすかな声を聞いた気がした。
けれど、それが幻だったのか、本当の声だったのか、わからない。
ただ胸が、じんと痛んだ。
そのとき、後ろから足音がした。
「見事にやられたな。……全部更地にするしかないか」
パットンだった。
SEとしての仕事を退職し、かつて夫婦で語った小さな夢――自宅の庭に、こぢんまりとしたカフェを作る話。
その夢が、現実味を帯びる日が来たのかもしれなかった。
「ここ、全部コンクリで打てば、駐車スペースも作れるな」
ぼそっと呟くパットンに、6ペリカは顔を上げた。
「……それでも、全部が無駄だったとは思わないわ」
「ん?」
「この庭で、私はたくさんの草たちと……おしゃべりしたの」
「……また妄想の話か?」
「ふふ、いいのよ。私の頭の中だけで、ちゃんと咲いていたの。みんな、立派に生きていた」
パットンは少しだけ困った顔で笑った。
それでも、もうそれを否定はしなかった。
「なら……ここは、君の好きにしていい」
その言葉に、6ペリカは驚いたようにパットンを見つめた。
「ただし……俺のカフェの夢も、いつか叶えさせてくれよ」
「……約束するわ」
握られた手が、あたたかかった。
春の訪れを思わせるような、穏やかな陽射しが差し込んでくる。
ふと、彼女の視線が庭の片隅に向く。
そこには――小さな白詰草が、そっと、ただ一輪、咲いていた。
「……あなた、生きてたのね」
答えはない。けれど、風に揺れるその姿は、まるで誰かの代わりに、春を告げているようだった。
あのタンポポの無邪気な笑い声。松の苗の誇り高き立ち姿。草三銃士のへっぴり腰。
みんな、ここにいた。確かに、生きていたのだ。
6ペリカは微笑み、そっとその白詰草に手を伸ばした。
もう誰もいない庭で、たった一輪の命が、静かに揺れていた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
6ペリカの庭から始まったこの物語が、こうして最後まで紡がれたのは、読んでくださったあなたのおかげです。
名もなき草たちに心を寄せてくださったこと。
6ペリカのちょっとズレた感性や、草たちのささやきに耳を傾けてくださったこと。
そのひとつひとつが、作品に命を吹き込んでくれました。
登場したすべての草たち、そして6ペリカ本人も、きっと心から感謝していることでしょう。
——「ありがとう」と。
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またどこかで、土の下で、風の中で。
彼らがふと顔をのぞかせるその時を、どうかお楽しみに。
本当に、ありがとうございました。




