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第19話『願い、風に散りて』

風が、やけに騒がしかった。

空は薄曇り、どこか庭全体がざわついているように感じたのは、気のせいではなかった。


「いいえ、ここはわたくしたちが守るべき場所ですわ」

タンポポは、まるで決意を掲げる騎士のようにクラピアの前に立ちはだかっていた。


「踏み越えるというなら、私がお相手いたします!」


「――へえ。お嬢様が自ら前に出るとは。大した覚悟だな」

ナガミヒナゲシが細く笑った。その声には、皮肉と警戒、そして一瞬の戸惑いが混ざっていた。


背後では、すでに数本の花が踏みにじられ、地に伏していた。

クラピアとヒナゲシ、互いに譲れぬ「庭の主権」を巡っての争いが、ついに衝突の火蓋を切った。


白詰草は遠くから、その光景を震えるような眼差しで見つめていた。

「タンポポ様……っ」

その声は風にかき消され、届かなかった。


「咲くべきものが、咲ける庭でありますように」

タンポポは微笑んだ。いつもの気高い笑みではなかった。ただ、あたたかく、誰かを包み込むような優しさがあった。


「それが……わたくしの、最後の願いでございますの」


咲き誇っていた黄色の花びらが、風に舞う。

次の瞬間、ヒナゲシの鋭い蔓が、彼女の茎を打ち据えた。


「タンポポ様ーーっ!!」

白詰草の叫びが庭中に響いた。彼女の小さな身体が駆け出す。だがその足取りは、恐怖と悲しみで震えていた。


倒れ伏すタンポポのもとに駆け寄ると、彼女は微かに笑っていた。

「泣かないで……白詰草。あなたの……春は、まだ……来るのだから」


その言葉を最後に、タンポポの花弁は音もなく地面へと落ちた。

風が、静かにその姿をさらっていった。


――その風は、縁側にいた6ペリカの頬も撫でていった。


「……なんだろ。さっきから、胸がざわざわする」


足元に転がる、踏まれたタンポポの花を見て、6ペリカはしゃがみこんだ。

「この子、前からここにいたっけ……? ……あれ、なんだろう。何か、言いたげな顔してる……ような」


隣で缶コーヒーを飲んでいたパットンが言った。

「……もう、全部コンクリにしちまおうか。これじゃ雑草に庭、食われるだけだろ」


その言葉に、6ペリカはすぐ返せなかった。

ただ静かに、潰れたタンポポの花を指先でそっと拾い上げ、見つめる。


「……あなたが言ってた、飲食店の夢。覚えてるよ」

「え?」

「昔、言ってたじゃない。退職したら、この庭をお店にするって」

「……ああ。そうだったな」


庭には、草たちのざわめきがもう聞こえなかった。

その沈黙のなかで、6ペリカはぽつりと呟く。


「でも、なんだろ……この子たち、ちゃんと咲こうとしてた気がするの」

「……ただの雑草だろ」


「うん。でもね。……咲いて、誰かの目に留まるだけでも、その命はちゃんと意味を持つんじゃないかなって……今は思うの」


その言葉に、パットンは答えなかった。

代わりに静かにコーヒーを置き、空を見上げた。


「少し……考えてみるよ。あの花たちのことも。お前のことも」


6ペリカの目に、ひとしずくの涙が光った。

タンポポの花を手に持ったまま、彼女は笑った。


「ありがとう……」


そして、彼女は見えない何かに向かって、そっと頭を下げた。

風が吹いた。あの日のように優しく――だが、もう誰もそれを迎えることはなかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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5つ星を目指して、草たちも地上で健気にがんばっております。

そして、もし続きが気になるな〜と思っていただけたら、ブックマークしていただけると励みになります!


物語は、ちょっとずつ…けれど確実に変化していきます。

「えっ、これ草の話だったよね?」と思う展開も、きっとあるかも。


草にもドラマがある。

次回も、どうぞよろしくお願いいたします!

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