第17話 『偽りの盟友』
薄曇りの空の下、タンポポは静かに風に揺れていた。
気高く咲くその姿には、どこか影が差している。
「……おかしいですわね」
ぽつりと呟くタンポポの眼前には、異様な光景が広がっていた。
クラピアとナガミヒナゲシ。かつて反発し合っていたはずの二者が、今や手を取り合うかのように、庭の一角を飲み込もうとしていた。
「ええ、違和感は確かにありますわ。利害が一致しているにしても……これは、調和ではなく、共食いの前の静寂」
そう囁いたのは白詰草だった。彼女は慎ましくも、その目に確かな危機感を宿していた。
「お姉様、今こそ策を講じなければ、また多くの命が散りますわ……」
タンポポは首を振る。
「焦ってはなりませんの。状況を見極めてこそ、真に優雅な一手が打てるというもの」
そう言いながらも、胸の奥ではざわめきが止まらなかった。
松の苗の不在、雑草三銃士の沈黙――この庭に吹く風は、どこか冷たい。
その頃――人間たちもまた、庭を巡る現実に直面していた。
「……雑草、また増えた?」
6ペリカが庭に出るなり、思わず声を漏らした。
クラピアの這う緑が、まるで意志を持ったかのように、周囲の植物を呑み込もうとしている。
「今年の春、何かが違う気がする」
そう呟いた彼女の背後で、パットンが口を開いた。
「……お前、前に言ってたよな。将来的に庭をどうするかって話。飲食店の話」
「うん。でも、今はまだ……」
「その“まだ”が、俺にとってはもう、限界なんだよ」
パットンの声は静かだった。けれど、その中に含まれる決意は重い。
「庭にコンクリ打とうと思ってる。そろそろ、準備を進めないと」
6ペリカは言葉を失った。
パットンの言葉が、ずっと遠くに感じられた。――そして、どこか懐かしい。
「……わかってる。あたしも、いつまでもこのままじゃいられないって、気づいてる。でも、でもね……」
地面に目を落とす。クラピアが這う先に、かつて花を咲かせていた場所がある。
そこに、もう戻れないのだとしたら――。
その夜。タンポポはひとり、月を仰いでいた。
「美しき月、あなたには見えておりますの? この庭の行く末が……」
静かに、そっと目を閉じる。
風が吹き、彼女の花弁を優しく揺らした。
けれど次の瞬間、その風の中に、明確な“異質”が混じった。
「――ッ!」
遠くで、何かが動いた。
クラピアが、ナガミヒナゲシが、同時に牙を剥き出す音。
タンポポは、ただ月を見上げたまま、花弁を震わせた。
「ついに始まりますのね……舞踏会の幕開けが」
そして、静寂は破られた。
《第17話 『偽りの盟友』》
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