表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

第17話 『偽りの盟友』

薄曇りの空の下、タンポポは静かに風に揺れていた。

気高く咲くその姿には、どこか影が差している。


「……おかしいですわね」


ぽつりと呟くタンポポの眼前には、異様な光景が広がっていた。

クラピアとナガミヒナゲシ。かつて反発し合っていたはずの二者が、今や手を取り合うかのように、庭の一角を飲み込もうとしていた。


「ええ、違和感は確かにありますわ。利害が一致しているにしても……これは、調和ではなく、共食いの前の静寂」


そう囁いたのは白詰草だった。彼女は慎ましくも、その目に確かな危機感を宿していた。


「お姉様、今こそ策を講じなければ、また多くの命が散りますわ……」


タンポポは首を振る。


「焦ってはなりませんの。状況を見極めてこそ、真に優雅な一手が打てるというもの」


そう言いながらも、胸の奥ではざわめきが止まらなかった。

松の苗の不在、雑草三銃士の沈黙――この庭に吹く風は、どこか冷たい。


その頃――人間たちもまた、庭を巡る現実に直面していた。


「……雑草、また増えた?」


6ペリカが庭に出るなり、思わず声を漏らした。

クラピアの這う緑が、まるで意志を持ったかのように、周囲の植物を呑み込もうとしている。


「今年の春、何かが違う気がする」


そう呟いた彼女の背後で、パットンが口を開いた。


「……お前、前に言ってたよな。将来的に庭をどうするかって話。飲食店の話」


「うん。でも、今はまだ……」


「その“まだ”が、俺にとってはもう、限界なんだよ」


パットンの声は静かだった。けれど、その中に含まれる決意は重い。


「庭にコンクリ打とうと思ってる。そろそろ、準備を進めないと」


6ペリカは言葉を失った。

パットンの言葉が、ずっと遠くに感じられた。――そして、どこか懐かしい。


「……わかってる。あたしも、いつまでもこのままじゃいられないって、気づいてる。でも、でもね……」


地面に目を落とす。クラピアが這う先に、かつて花を咲かせていた場所がある。

そこに、もう戻れないのだとしたら――。


その夜。タンポポはひとり、月を仰いでいた。


「美しき月、あなたには見えておりますの? この庭の行く末が……」


静かに、そっと目を閉じる。

風が吹き、彼女の花弁を優しく揺らした。


けれど次の瞬間、その風の中に、明確な“異質”が混じった。


「――ッ!」


遠くで、何かが動いた。

クラピアが、ナガミヒナゲシが、同時に牙を剥き出す音。


タンポポは、ただ月を見上げたまま、花弁を震わせた。


「ついに始まりますのね……舞踏会の幕開けが」


そして、静寂は破られた。


《第17話 『偽りの盟友』》

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


お楽しみいただけましたら、ぜひ「評価(⭐︎)」をポチッと押していただけると嬉しいです!

5つ星を目指して、草たちも地上で健気にがんばっております。

そして、もし続きが気になるな〜と思っていただけたら、ブックマークしていただけると励みになります!


物語は、ちょっとずつ…けれど確実に変化していきます。

「えっ、これ草の話だったよね?」と思う展開も、きっとあるかも。


草にもドラマがある。

次回も、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ