第15話 『戦火は緑を染め』
朝焼けの庭に、張り詰めた空気が漂っていた。
タンポポは風の動きを読みながら、遠くを見つめていた。
「……嫌な匂いですわね。争いの予感がいたしますわ」
その横で、白詰草が心細げにうつむく。
「もう、止められないの……?」
庭の一角では、クラピアの繁殖地が広がっていた。根を張り、葉を増やし、その領地は目に見えて拡大している。
クラピアの統率者――“クラピア陣営筆頭株”のカズランが、低く唸るように語った。
「我々は…ただ、陽を浴び、土地を覆いたいだけだ。それが悪なのか」
その言葉に応えるように、対岸から赤い花びらが揺れた。
ナガミヒナゲシの群れ。
その中心には、華やかさと毒を纏った存在、“緋の咲き姫”ナガミ・ヒナがいた。
「ふふ、まるでわたくしたちが侵略者みたいな言い草。先に蔓を伸ばしたのは、そちらですのよ?」
「こちらはただ、成長しただけだ」
「その成長が、わたくしたちの場所を脅かすのですもの。自衛という名の…攻勢、ですわ」
緊張が走った。
両者とも、明確な開戦の言葉は吐いていない。だが、刃は抜かれている。
その最中、庭の隅から慎ましく立つ松の苗が静かに二者を見つめていた。
「争いは、土を痩せさせる。己が力を誇るより、己が根を守るべきではないか」
誰も応じない。ただ、風が松の枝を撫でた。
その頃――
リビングでは、6ペリカとパットンが庭を前にして言葉を交わしていた。
「……すごい、荒れてきたな。クラピアのやつ、あんなだったっけ?」
パットンが眉をひそめると、6ペリカはコーヒーを飲みながら呟いた。
「最初は小さな苗だったのよ。でもね、あれ、他の草押しのけてどんどん広がるの」
「…飲食店の計画、やっぱり早めた方がいいかもな。いずれあそこ全部コンクリ打つんだし」
「……えっ?」
「いや、元々そういう話だったろ?引退したら店開こうって。庭はテラス席にして――」
「……」
6ペリカの瞳に、言いようのない哀しさが宿った。
「でも、あの子たち、まだ生きてるのよ…」
その言葉の真意を、パットンはまだ知らない。
ただ、どこか胸に引っかかる何かを感じていた。
――庭では、ついに均衡が崩れた。
クラピアの一群が動き出し、領地を押し広げようと蔓を絡ませた。
それに応じて、ヒナゲシたちが毒を纏った種子を撒き、応戦する。
「これが……草たちの、戦争……」
白詰草が小さく震える。
タンポポは静かに彼女を抱き寄せた。
「安心なさいまし、わたくしがあなたを守ってみせますわ。
……それにしても――あの松の苗。巻き込まれなければ良いのですが……」
そして、静かに佇む松の苗の根元には、ほんのわずかな亀裂が走っていた。
まだ誰も気づかぬ、小さな運命の裂け目。
《第15話 『戦火は緑を染め』》
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