第14話 『咲ク花ノ、在ル意味』
朝露が葉をつたい、微かな光が庭を照らす頃。タンポポは、ひとり風に揺れていた。
「……皆さん、今日もお元気かしら」
そう呟きながら、タンポポは空を見上げる。かつては彼女のまわりにも、笑い合い、共に咲く仲間がいた。だが、いまは風に流され、去っていく者ばかり。クラピアの勢力が広がるにつれ、その苛烈な侵略の波は、静かに、だが確実に草たちを飲み込んでいった。
「私たちの在るべき場所が、日に日に……狭まってゆくのね」
白詰草がそっと隣に咲いていた。可憐な花を揺らしながら、優しく声をかける。
「タンポポ姉さま、きっと……きっと、この場所も、また平穏になりますわ」
「そう……そうね、信じたいわ。けれど、あの二人がいる限り——」
風の向こう、日当たりの良い場所。そこにはクラピアが、まるで絨毯のように広がっていた。葉を這わせ、根を張り、まわりの草たちを押しのけながら、自らの領土を着々と拡大している。
そして、その中心で陽を浴びるのは、誇らしげに咲くナガミヒナゲシ。
「ねえ、クラピア。もう少しで、花壇を超えられそうよ」
「当然だ。我が意志のままに、大地は染まる。生き残りたければ、従うがいい」
——彼女たちに理屈は通じない。己が強く美しいと信じ、そのためなら他を排すことも厭わない。
タンポポは、強く、地に根を張る。
「私は……私は、咲くためにここに居るのではなく、この庭に咲く”意味”を問うためにここに居るのよ」
白詰草がそっと寄り添い、そよ風に揺れる。
「姉さま……どうか、ご無事で……」
その頃、庭の奥。木陰にひっそりと立つ松の苗は、そっと目を閉じていた。
——我もまた、誰かの意志によりて生まれ、此処に在る。
己の存在が、もはや偶然ではなく、何かを導くための”布石”だと知っているような顔で。
同じ空の下で、それぞれが異なる想いを胸に咲いていた。だが、彼らを包む風は、確実に変わりつつある。
そしてその頃、人間サイド——
「ひどいわ……どうして……」
6ペリカが庭を見下ろしていた。かつて彩り豊かだった花壇は、すでにその原型を失いかけている。
隣でパットンが無造作に呟いた。
「いっそ全部コンクリにして、土台にしちまったほうが早いな……」
「……っ!」
6ペリカは思わず振り返る。
「貴方……本気で言ってるの? ここを、潰すって……」
パットンは無言で目を伏せた。けれど、その背中には——何かを決意する者の硬さがあった。
「こんなの、ただの草じゃない……命なのよ……」
誰にも聞こえないはずの声が、確かに草たちの間に、微かに届いたような気がした。
——風が、止んだ。
そして、静寂の中で、新たな戦が、始まろうとしていた。
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《第14話 咲ク花ノ、在ル意味》
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