第11話『芽吹く悪意、花壇の決戦』
かつては静寂に包まれていた6ペリカ邸の花壇。
今はその面影など、もはやない。
クラピアの這うような茎は、花壇の縁を乗り越え、彩り豊かな花々の根元を容赦なく侵略していく。かつてその場所に根付いていたパンジーやビオラは、押し寄せる緑の波に飲まれ、色を失っていた。
「……あの子、止まらないわね……」
ナガミヒナゲシは一本だけ咲き残るガーベラの傍らで、風に揺れていた。
その花弁は、まるで心ここに在らずと言わんばかりに震えていたが、彼女の内には今も、じわじわと赤く燃える衝動が渦巻いている。
彼女の根は、既に庭の端まで侵出している。
その先端が、クラピアの繁茂する地帯と交差するのは時間の問題だった。
「クラピア……あなた、何が目的?」
問いかけは届かない。
クラピアは一言も発さず、ただただ地を這い、すべてを覆い尽くすように進軍を続けている。
その様はまさに悪魔。会話すら通じぬ純然たる『欲』の化身。
「だったら……私もやるしか、ないよね?」
静かだったナガミヒナゲシの瞳に、一瞬だけ光が差した。
その根が、土を裂くように力強く前に伸びる。
「庭の……主役は……私よ……!」
——その時、花壇に風が巻いた。
ふわり、と土埃が舞い、陽光の中で二つの影が対峙する。
侵略者クラピアと、増殖者ナガミヒナゲシ。
花壇という小さな舞台にしては、あまりにも重すぎる空気が張り詰める。
一歩引いた場所でスギナとチガヤが震えながら囁いた。
「やべぇぞ……どっちが勝っても、俺たちゃもう戻れねぇ……」
「セイタカアワダチソウの兄貴も……もうやられちまったって噂だ……」
名もなき雑草たちが、恐怖に震えて押し黙る中、戦いの幕は静かに上がろうとしていた——
——その時だった。
「たっだいま〜! 初売り、意外と混んでたわ〜……あ、福袋も買っちゃった!」
明るい声が庭に響いた。6ペリカだった。
「……え?」
玄関から花壇へ向かう足が止まる。
「……え? な、なに、これ……?」
彼女の目に映ったのは、緑の魔が這い尽くす花壇と、そこに立ち尽くす一輪の赤。
クラピアとナガミヒナゲシ。
ふたつの異形の植物が、まるで意思を持って睨み合っているかのような光景。
「……これは……」
袋を取り落とす音が、やけに大きく響いた。
——《第11話 芽吹く悪意、花壇の決戦》
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