表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄で息をする  作者: 乙丸 乃愛
〈プロローグ〉
1/11

〈プロローグ〉

 あの冬が脳裏をよぎるほど、花冷えのする日。二人で過ごした旧校舎の屋上のフェンスに手をかける。視界に映る手は一回り大きくなっていて、あの日から、僕の身体だけは時が経っているようだった。

 あの冬から僕は凍てついている。僕の記憶を氷つけた、白い肌に綺麗な黒髪を揺らしながら、寂しそうな横顔で僕の名前を呼ぶ女の子。強くて、優しくて、とても脆い、寂しがり屋の彼女は、今から僕と死ぬと言うのに、「私のことを覚えていてほしい」なんてバカなことを口にする。だから僕は「うん、絶対忘れない」と彼女が安心する言葉を選んだ。生きるのに向いていない僕たちは、二人で死のうと手を取り合った。死への旅の途中、「未来は、一人でも生きていける人だよ」と皮肉混じりの言葉を口にする彼女は、どこか寂しそうだった。

 日。二人で過ごした旧校舎の屋上のフェンスに手をかける。視界に映る手は一回り大きくなっていて、あの日から、僕の身体だけは時が経っているようだった。

 あの冬から僕は凍てついている。僕の記憶を氷つけた、白い肌に綺麗な黒髪を揺らしながら、寂しそうな横顔で僕の名前を呼ぶ女の子。強くて、優しくて、とても脆い、寂しがり屋の彼女は、今から僕と死ぬと言うのに、「私のことを覚えていてほしい」なんてバカなことを口にする。だから僕は「うん、絶対忘れない」と彼女が安心する言葉を選んだ。生きるのに向いていない僕たちは、二人で死のうと手を取り合う。「未来は、一人でも生きていける人だよ」と皮肉混じりの言葉を口にする彼女は、どこか寂しそうだった。

 二人で手を取り合ったはずなのに、地球から追い出されたのは彼女だけで、僕は今でも呼吸できているのかもわからない、息が詰まりそうな地獄で息をしている。

 そう、高校二年生の冬、僕らは死別したのだ。僕らの別れが死別なら、彼女と次に会えるのは僕が死んだ時。そう思って、何度も彼女に会いにいこうと考えたが、その度に彼女の優しい呪いが僕を引き留めた。おかげで、寂しがり屋の彼女に置いていかれた僕は、今日まで彼女の言葉通り一人で生きている。

 彼女はもういないと言うのに、僕だけの時が止まらない。だから、今もこうして旧校舎の屋上から、あの頃と同じ景色をひとりで眺める。あの日から何も変われない僕は、彼女の優しい呪いを解けずに、二度と返ってこないと分かっている許しを今日も請う。


「千愛、いつになったら君に会いに行ける?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ