〈プロローグ〉
あの冬が脳裏をよぎるほど、花冷えのする日。二人で過ごした旧校舎の屋上のフェンスに手をかける。視界に映る手は一回り大きくなっていて、あの日から、僕の身体だけは時が経っているようだった。
あの冬から僕は凍てついている。僕の記憶を氷つけた、白い肌に綺麗な黒髪を揺らしながら、寂しそうな横顔で僕の名前を呼ぶ女の子。強くて、優しくて、とても脆い、寂しがり屋の彼女は、今から僕と死ぬと言うのに、「私のことを覚えていてほしい」なんてバカなことを口にする。だから僕は「うん、絶対忘れない」と彼女が安心する言葉を選んだ。生きるのに向いていない僕たちは、二人で死のうと手を取り合った。死への旅の途中、「未来は、一人でも生きていける人だよ」と皮肉混じりの言葉を口にする彼女は、どこか寂しそうだった。
日。二人で過ごした旧校舎の屋上のフェンスに手をかける。視界に映る手は一回り大きくなっていて、あの日から、僕の身体だけは時が経っているようだった。
あの冬から僕は凍てついている。僕の記憶を氷つけた、白い肌に綺麗な黒髪を揺らしながら、寂しそうな横顔で僕の名前を呼ぶ女の子。強くて、優しくて、とても脆い、寂しがり屋の彼女は、今から僕と死ぬと言うのに、「私のことを覚えていてほしい」なんてバカなことを口にする。だから僕は「うん、絶対忘れない」と彼女が安心する言葉を選んだ。生きるのに向いていない僕たちは、二人で死のうと手を取り合う。「未来は、一人でも生きていける人だよ」と皮肉混じりの言葉を口にする彼女は、どこか寂しそうだった。
二人で手を取り合ったはずなのに、地球から追い出されたのは彼女だけで、僕は今でも呼吸できているのかもわからない、息が詰まりそうな地獄で息をしている。
そう、高校二年生の冬、僕らは死別したのだ。僕らの別れが死別なら、彼女と次に会えるのは僕が死んだ時。そう思って、何度も彼女に会いにいこうと考えたが、その度に彼女の優しい呪いが僕を引き留めた。おかげで、寂しがり屋の彼女に置いていかれた僕は、今日まで彼女の言葉通り一人で生きている。
彼女はもういないと言うのに、僕だけの時が止まらない。だから、今もこうして旧校舎の屋上から、あの頃と同じ景色をひとりで眺める。あの日から何も変われない僕は、彼女の優しい呪いを解けずに、二度と返ってこないと分かっている許しを今日も請う。
「千愛、いつになったら君に会いに行ける?」