第94話:ピンチ?!
夏の日差しが眩しい夏休み期間中のとある日、私たちは駅前にあるカラオケ店にいた。いつもであれば四人の歌声が溢れるであろうその空間には、五人目の声が混じっていた。
「改めまして、私の名前は眞鍋 沙紀です。二人とも、よろしくね?」
そう言ってニッコリと微笑んだのは、私がかつて通っていた峰島中学で同じクラスだった女子生徒・・・。
「私と沙紀ちゃんは家が近くて、その関係で桜とも仲が良くて・・・。でも、小学三年生の時に引っ越しちゃったんだよね。そのせいで中々会えなくなっちゃって・・・」
初めての顔合わせとなるはずの私たちへと、彩音ちゃんは説明する。
「今までもスマホで連絡とったりとか、偶に会ったりしてたんだ。だけどお互いに行き来するのは大変だし、どうしても近くの友達と行動することが多くなっちゃうから・・・」
ここから向こうまでは電車で三駅分離れているし、それの往復となると結構なお金が掛かる。それをお小遣い事情の厳しい中学生の私たちが捻出し続けるのは非常に難しいだろうし、そもそも転校先の学校で仲の良い友達がたくさんできたみたいだしねぇ~。
「それで、今日は偶々タイミングが合って、それで久しぶりに会おうってなって。せっかくだし、雪と夏姫ちゃんにも紹介しようってなってさ」
そう言って、桜ちゃんは眞鍋さんの方へと視線を向ける。
「そんなわけなの。だから、今日はよろしくね?」
眞鍋さんは満面の笑みを浮かべながら、その視線を私たちに向けてくる。
「う、うん。よろしく・・・」
それからは、五人での歌合戦が始まった。各々の得意とする歌を熱唱し、誰が高得点を出せるかを競い合った。
「あああぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁぁああおおおおえぇえええぇえ!!」
「「「「・・・・・」」」」
最早何を歌っているのか解読不可能な桜ちゃんのヘビメタに耳を塞ぎ・・・。
「あぁ、沁みるわぁ・・・」
「ホント、彩音の歌は心が洗われるっていうか眠くなるっていうか・・・」
相も変わらずいい声で歌う彩音ちゃんのちょっと古臭いバラードを聞き・・・。
「それじゃあ次は私の番なんだぜい!イェーイ!!」
無駄に元気な雪ちゃんは最近流行りのボカロを歌い・・・。
「よかったら、デュエットしない?」
「えぇ・・・」
ニヤニヤとした笑みを浮かべその手を私の腰へと回し、そうやって積極的に絡んでくる眞鍋さん。
「夏姫ちゃんとは、仲良くしたいな?」
「・・・・・」
「もちろん雪花ちゃんともね?」
「・・・・・」
これはもしかしなくても、バレてますよねぇ・・・。
「夏ちゃん、大丈夫?何か挙動不審だけど・・・」
「・・・・・」
いや、全然全く大丈夫じゃないですねぇ・・・。
「うふふふふふ」
「・・・・・」
私は今、どうしようもないほどにピンチなのであった。