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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第一章:激動の夏休み
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第9話:夕立

 色物コスプレショップでのウインドウショッピングを終え、僕たちは別の階にある飲食店へと来ていた。


「皆のもの・・・。本日の成果はゼロなり・・・」

「「「「「・・・・・」」」」」

「だがしか~し、私は諦めないっ!この世にはネットショッピングという物がある、何なら自作だってできる!!」

「「「「「おぉ~」」」」」


 適当に頼んだ飲み物に口を付ける僕を見ながら、眞鍋さんは力強く拳を掲げる。うん、マジでヤメてね?


「とりあえず、今日はお昼だけ食べて帰ろうか?何か興醒めしちゃったし・・・」

「夏樹君もゴメンねぇ~?せっかく来てくれたのに」

「いや、別にいいよ・・・」


 本当は全くもって何もよくなんかなかったのだけれど、僕は一先ずそう答えておく。


「値段とかサイズとか、あらかじめ確認してなかったの?」

「そこまで見てなかった。初めて見るメイド服とかに興奮して、そこまで気が回らなかった」

「さっちゃん・・・」

「えへへ、えへへへへ・・・」


 わざとらしい作り笑いで謝罪を繰り返す眞鍋さんから視線を逸らし、僕は辺りを軽く見回す。


「・・・・・」


 僕たちがいるショッピングモールは、この辺に住む中高生たちにとっての唯一といっていい遊び場になっていた。その理由はシンプルにここ以外に適当な施設が無く、それに加えてこのモールとその周辺には様々な価格帯の店が多数集まっており、その中には僕たちのような学生をターゲットとしている店もあるからだ。

 そんなわけで、モール内では僕たち以外にも多数の学生たちを見掛けることができた。今は夏休みに入ったばかりということも手伝って、特にその傾向が強かったようである。


「ねえ、あれってウチのクラスの深山みやまじゃない?それと内田うちだ

「あ、ホントだ。お~い!!」


 コミュ力強強の女子たちは周りの視線を憚ることなく、その男子生徒たちに声を掛ける。


「ん、あれ?眞鍋たちじゃん」

「本当だ・・・。ちーっす。てか、なんで一色もいるの?」


 クラスメイトの女子グループの中に一人だけ、黒一点である僕。そんな一人だけ明らかに異質な存在である僕に、クラスメイトである男子生徒たちは訝し気な視線を向ける。


「面白そうな店を見つけたから、夏君と遊ぼうと思って」

「そのお店、メイド服とか置いてあるんだよ。だから、夏樹君を着せ替え人形にして皆で愛でようと思って」


 女子たちの返答に、男子たちは納得したように頷く。いや、そこは納得しないでもらえます?


「そっか・・・。一色、強く生きろよ?」

「お前がそっちの道に進んでも、俺たち友達だからな?」


 男子たちからの憐みの視線が、ツラい・・・。ヤメて、そんな目で見ないで?!


「ところで、深山たちは何してんの?今日って部活なんじゃないの?」

「え?あぁ、まぁ・・・」

「もしかしてサボり?サッカー部なのに?!あの熱血池田先生が顧問のサッカー部なのに?!」

「いや、色々とあんだよこっちにも・・・」


 そう言いつつ、意味深な視線を僕の方へと向けながら深山君たちは大きな溜息を零す。


「B組の武井、知ってんだろ?」

「え?ああ、あの無駄に背の高い男子?」

「無駄にって・・・。アイツ、サッカー部の新しい部長なんだけど、ちょっと色々と問題があって・・・」

「俺、アイツと同じ小学校出身なんだけどさ。アイツ、小学生の頃は地元のサッカークラブでエース張ってて、そのチームは小学生向けのチームだったから当然もう所属していないんだけど・・・」

「で、そんな経緯もあってアイツは中学に上がっても当然の如くサッカー部に入ったわけ。体もデカいし経験者だからサッカーも上手いし、だから天狗になってたんだよな。それなのに、当然なれると思っていた部長には別の奴が推されたわけ」


 男子生徒二人の視線が、僕に集中する。


「本田ってさ、サッカー上手いよな?サッカーだけじゃなくて、運動全般が得意っていうか・・・」

「それに加えて、人当たりも良いよな。武井は粗暴で自己中な感じが強いけど、本田にはそれがないし・・・」


 深山君たちの話しぶりから、女子たちは何となくではあるが状況を察したらしい。話題に上っている陽介といつも一緒にいる僕に意味深な視線を向けつつも、呆れたような声を上げる。


「それってつまり、その武井君が本田君に嫉妬して色々とやらかしてるって話?」

「まあ、簡単に言うとそんな感じ・・・」

「はぁ?バッカみたい」

「「・・・・・」」


 冷めた目をしながらバッサリと切り捨てるクラスメイトの女子たちに恐れをなしたのか、二人の男子は挙動不審になりながらオドオドと去っていった。


「本田君も大変ねぇ~」

「・・・・・」

「それと、夏君も大変ねぇ~?」

「え?」


 そんなこんなで店での軽食を終え、僕たちはモールの外へと向かって足を動かす。


「あれ?曇ってる・・・」


 午前中は薄っすらと白い雲がかかるくらいで、雨の気配はなかったんだけど・・・。


「これは、急いで帰らないとマズいかもねぇ・・・」


 皆と別れともちゃんと共に駆け足で家へと帰り、そうして自室へと戻った僕がふと窓の外を覗くと、真っ黒な雲に覆われた夏の空からは、雷を伴った大粒の雨がドシャドシャと降り注いでいた。

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