第89話:プレゼント
七月も半分ほどが過ぎ、今日の日付は七月の十三日。本日は何と、私の十五回目の誕生日である。
「夏ちゃんおめでと~う!!」
「うん、ありがとう」
いつも通り家での宿題と勉強を終え、今の時間は午後十九時半。テーブルの上に並んだいつもよりも豪華な夕食と、そのあとに控える誕生日ケーキ。
「今日で夏ちゃんも十五歳かぁ~。何だか感慨深いねぇ~?」
私よりも四カ月ほどあとに生まれた従妹様が何か言っているけれど、今はそんなことどうでもいい。今何よりも重要なのは、目の前に広がる肉とか肉とか肉を口の中に収めること。
「「「いただきま~す」」」
うむ、実に美味である。これがA5ランクの肉かぁ~。
「凄いよ・・・。肉汁が、肉汁が次から次へと溢れてくるよ・・・」
目をキラキラさせながら最上級の牛肉へとかぶり付く雪ちゃんと、それを見て柔らかな笑みを浮かべる伯母さん。そんな二人を眺めながら、私はほっこりとした気持ちになっていく。
「夏ちゃんありがとねぇ~。夏ちゃんのお陰で、久しぶりに高いお肉が食べれたよぉ~~」
そうしてお肉を食べケーキを食べそのまま歯も磨いて、私は雪ちゃんの部屋にいた。
「うむ、実に満足じゃ。ケフッ・・・」
膨れたお腹を擦りながら、勉強机の椅子に腰掛けつつ、清々しいまでに大きなゲップを零す雪ちゃん・・・。
「・・・・・」
いやもう、今日は何も言うまい。本当ならはしたないとかお淑やかにしなさいだとか、色々と言うべきなんだろうけれど・・・。本日は私の十五回目の誕生日。今日くらいは色々と目を瞑って、気持ち良く明日を迎えることにしよう。
私はそう心の中で誓い、引き攣った口元を必死に解きほぐす。そして雪ちゃんに勧められるままに雪ちゃんのベッドへと腰掛け、再びその顔に笑顔を張り付ける。
「それではお待ちかね、誕生日プレゼントの時間だよ!!去年は夏ちゃんに素敵なハンカチを貰ったから、私も必死に考えて夏ちゃんが喜びそうな物を探してきたんだよ?」
そう言って、雪ちゃんは茶目っ気たっぷりのウインクを飛ばしてくる。
「じゃあ、ちょっと目を瞑っててよ」
「うん」
「うふふふふ」
「・・・・・」
雪ちゃんの言葉に従って、私はベッドに腰掛けたまま目を固く瞑る。そして・・・。
「せいや!!」
謎の掛け声と共に、私の顔のすぐ前方から聞こえてくる「ぶっ!!」という濁った音と、漂ってくる不快なあのにおい・・・。
「・・・・・」
私は、ゆっくりと目を開ける。そしてそのまま顔の前を漂う不快なにおいのガスを手で振り払い、ニヤニヤ顔を浮かべる雪ちゃんに向かってジト目を飛ばす。
「くっくっく。夏ちゃんは相変わらず甘いなぁ~?」
「・・・・・」
「お姉ちゃんは心配だよ。夏ちゃんは素直で良い子なんだけど、悪い男に騙されるんじゃないかってさ」
「・・・・・」
私のジト目なんて何のその、私の従妹様は相も変わらず機嫌良さそうで、傲岸不遜な顔をしていた。
「あとで伯母さんに言いつけてやるから」
「え?」
「ついでに、いつも制服を脱ぎっぱなしにしてることとか、半裸で家の中をウロウロしてることとかも言いつけてやるから」
「・・・・・」
うふふふふ・・・。
「な、夏ちゃん?嘘だよね?ヤメてよ、お母さんにチクるのは?!」
その後はいつもの如く二人でじゃれ合って、あまりの騒がしさに二人して伯母さんから怒られて・・・。
「はい、これ。本当の誕生日プレゼント」
そうして雪ちゃんから渡されたのは、防犯ブザー?
「夏ちゃんもさ、もうすっかり女の子なんだから、色々と気を付けないとね?」
「・・・・・」
それはどこまで本気なのか、いつも通りの冗談なのか。思いもよらなかった従妹様からの誕生日プレゼントに私は内心首を捻り、複雑な気持ちになるのだった。