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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第五章:驚異の胸囲格差と夏のプール
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第88話:越えられない壁

 今年初の水泳の授業が行われたその日の昼休み時間、私たちは教室にいた。最近は図書室で勉強する三年生たちが劇的に増えて、そのせいでそこを利用し辛くなってしまったのだ。


「佐久間君なんだけどさ、先生にこっぴどく怒られたみたい」


 数学の参考書と睨めっこをしながら、桜ちゃんが小声で語る。


「さっき新地君と廊下ですれ違ったからそれとなく訊いてみたんだけど、水泳の授業のあとに男子は纏めて先生から怒られたらしくてさ。特に佐久間君の言動は酷かったから、尚更ね?」


 水泳の授業あとの教室のあの空気は、そういうことだったのか・・・。


「へぇ~?郷田ごうだ先生、いつもヤル気なさそうに見えるけど、ヤル時はヤルじゃん!!」


 英語の単語帳を高速で捲りながら、雪ちゃんは目を輝かす。


「でも、それなら授業中に注意してくれればよくない?その場で言ってくれれば、そこで解決するんだし・・・」


 国語の漢字の書き取りをしていた彩音ちゃんは、そう言って不満顔である。


「その場で注意すれば確かに収まるかもだけど、そのあとのフォローとか考えたら色々と難しいんだと思うよ?」

「えぇ~?」


 私の言葉に、彩音ちゃんはなおも不満顔だ。彼女はそのCカップの胸を散々揶揄われていたから、余計に納得できないのだろう。


「その場では一時的に収まっても、そのあとにまたトラブルになってもそれはそれで大変だろうしさ」

「う~ん・・・」

「叱って終わりじゃなくて、次のトラブルを未然に防いだり何が悪かったのかをしっかり理解させたりとか、そっちの方がより大事っていうか」

「・・・・・」


 私の両親はともに高校の現役教師だから、学校での出来事についての愚痴っぽい話も耳にする。本当はそういった話は家でしない方がいいんだろうけれど、二人とも完全完璧な超人じゃないし、家の中でくらいは弱音を吐き出せるよう一人娘の私としては子供なりに気を遣っているわけなのである。

 そんなわけで他の人よりは教師という職業の大変さとか難しさとか、そういったことについては理解しているつもりなんだけれど、それで彩音ちゃんが納得できるかというとそれはそれで別の話というか・・・。


「とにかく、暫くは様子見かなぁ~?」

「そうだねぇ~。これで大人しくなってくれれば御の字だし、ダメだったらまた先生たちに頑張ってもらうしかないのかもねぇ~?」


 そうして一旦その話題は流れ、私たちは勉強へと意識を戻す。そして僅か五分後・・・。


「おトイレ行きたいんだけど、他に行く人?」

「「「はぁ~い」」」


 私たちはトイレへと向かうべく、揃って席を立つ。


「「「「・・・・・」」」」


 私が女子として学校生活を送るようになってから、すっかり当たり前となってしまった連れション・・・。男子の時にはその光景に疑問符を浮かべていた私ではあるのだけれど、最近ではこの行動について何の疑問も抱かなくなってしまった。


「私は、変わってしまったのかもしれない・・・」

「ん?何か言った?」

「いや何も・・・」


 そうして四人揃って廊下を進み、前方から歩いてきた男子グループを巧みに躱し・・・。


「あっ」


 残念なことに、豊かな胸部を持つ彩音ちゃんに巧みな身のこなしは難しかったらしい。彼女は男子の一人とその肩をぶつけてしまい、その拍子で男子の足下へと何かが転がっていく。


「これ、落としたよ?」

「「「「・・・・・」」」」


 爽やかな笑みを浮かべつつ、男子グループの中の一人である鈴木君がそれを掲げる。


「あ、ありがとう・・・」

「うん、どういたしまして」


 鈴木君は、相も変わらず紳士だった。ヒロインが落としてしまったハンカチを拾う王子様の如くその動きは自然であり、それ故にその手に握られている物は彼と一緒に行動していた男子や廊下を歩いていた他の生徒たちの目にもバッチリと映っていた。

 幸いなことに、殆どの男子たちはそれが何なのか気付かなかったようである。おそらくはポケットティッシュか何かと勘違いして、特に気にも留めていないようであった。


「「「「・・・・・」」」」


 颯爽と去っていく文芸部部長の姿に、私たちは何とも言えない複雑な気持ちになる。女子の体型のことをどうこう言ってくる佐久間君は論外として、学年一の紳士であるとされる鈴木君の無知からくる微妙なその対応に、私たちは男女間に横たわる越えられない壁を感じたのだった。

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