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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第五章:驚異の胸囲格差と夏のプール
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第81話:当たり前の風景

ここから新章となります。夏だよ!水着だよ!!な第五章(81話~100話)をお楽しみください。

 色々とあった修学旅行も終わり、今は六月中旬の金曜日の放課後。私たちいつもの四人は皆揃って図書室にいた。

 いつもであれば昼休み放課後問わず閑散としているはずのその場所には、私たち以外にも多くの生徒がいた。彼等は皆三年生であり、詰まるところ皆仲良く受験勉強に励んでいるわけなのである。


「何ていうか、ちょっと複雑な気分だよ。ここが賑やかなのは悪いことではないんだけれど、何だかね・・・」


 私たちの近くで勉強していた文芸部部長の鈴木すずき君が、そう言って複雑な表情を浮かべていた。彼は昼休みや放課後に人の気配が無い図書室で本を読んだりしていたから、色々と思うところがあるのだろう。


「部長、それは仕方ないって。だって、皆文芸部のことを実質的な帰宅部だって認識した上で入部してるんだからさ」


 そう言って、ゆきちゃんは持っていた鉛筆をクルクルと回す。


「そうそう。ウチの学校は運動部の方は活発だけど、美術部とか合唱部とかも人数は少ないしさ」


 そう言って、さくらちゃんは持っていた消しゴムをコロコロと無意味に転がす。


「私たちみたいに運動が苦手で、だけど文化系の部活も微妙だなぁ~って子たちにとって、文芸部は有難い存在なんだって!だから部長も胸を張って、エラそうにしてればいいんだよ!!」

「・・・・・」


 時折近くの子たちと中身の無い会話を挟みながら、私たちは勉強を進めていく。家に帰ってからは孤独な闘いが待っている子が多いので、こうやって皆と一緒になって勉強ができるこの時間は中々に貴重な癒しとなっていた。


「ねえ、夏ちゃん。ここは?」

「ああ、そこはね?」


 そうして十七時まで皆で勉強し、私たち四人は図書室を後にする。


「最近、暑くなってきたよねぇ~」

「そうだねぇ~」

「もうすぐプールもあるし、はぁ~、超憂鬱だよぉ~」


 とりとめのない話をしながら校門を抜け、そこで私たちは帰り道が真反対である二人と別れる。


「じゃあ、またね~~!!」

「バイバ~~イ!!」


 それは、もうすっかり当たり前となってしまったいつもの風景。


「それじゃ、私たちも帰ろっか?」

「うん」


 私が初めて月経を経験したあの日から、もうすぐで一年になる。初めのうちこそ不安でいっぱいだった新しい生活は、従妹の雪ちゃんとその友達である桜ちゃんと彩音あやねちゃんの協力によって何とか上手くいっていた。

 彼女たちの存在がなかったならば、私の女としての学校生活は危機的な状況を迎えていたかもしれない。男としての思考が残ったままでの女子たちとの絡みとか更衣室での着替えとか、ましてや皆と一緒に素っ裸になっての大浴場での入浴とか、そういった諸々を私一人の力で乗り越えられたとは到底思えない。


 私が心の中で恐れていた地獄のような学校生活は、彼女たちのお陰で回避できた。私が頭の中で思い描いていた理想の女子像とはだいぶ違ったけれど、今の学校生活は悪くない。

 彼女たちには、本当に感謝しても感謝しきれない。 当たり前じゃないことを当たり前に変えてくれた彼女たちには、一生頭が上がらない。


「「ただいまぁ~~!!」」


 そうして色々と感慨深い気持ちになりながらの帰り道は、唐突に終わりを迎えた。私は雪ちゃんと揃って誰もいない家の中へと元気よくただいまの挨拶を飛ばし、勢いよく玄関を潜り抜ける。


「うっしゃ~!先ずはシャワーじゃ~~!!」


 私の従妹は、相も変わらず無駄に元気だった。


「夏ちゃん、久しぶりに一緒に入る?」

「ううん、狭いから一人で入って?」

「えぇ~、せっかく夏ちゃんの成長したお胸を直に揉もうと思ったのにぃ~~」

「・・・・・」


 そして、相も変わらずイタズラ好きで、未だに私のことをよく揶揄ってくる。


「じゃ、先に行ってくるぜい!!」


 廊下に散らばった雪ちゃんの荷物を片付けて、雪ちゃんの部屋から着替えを脱衣所へと持っていって・・・。


「ふぅ~」


 自分の部屋のベッドへと腰掛けた私は、机の上で真っ暗なままのスマホへと視線を向けるのだった。

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