第80話:好意と困惑
修学旅行が終わったその翌日の土曜日、私は陽介の部屋を訪れていた。
「はいこれ、お土産の八つ橋ね?」
そう言って、私は買ってきたお土産を二人の幼馴染たちへと手渡す。
「おお~、サンキュ~~」
ちなみに、陽介たちは六月の中旬に修学旅行に行くらしい。しかもその行き先は、京都・・・。
「お土産ありがとねぇ~?ちなみに、私たちのお土産もたぶんだけど八つ橋になるよ」
そう言って、ともちゃんはニカっと笑う。そんな彼女は陽介の部屋を自分の部屋の如く扱っており、部屋の主であるはずの陽介は隅へと追いやられていた。
「本来であれば、今日も地獄の受験勉強をしないといけないんだけど・・・。今日は何と、特別に三人で遊び倒す権利を貰ってきております!!」
陽介によるサポートと両親たちによる鬼の扱きによって、ともちゃんの成績は若干ではあるものの上向いていた。一方で彼女の顔色は日に日に悪化しており、私と久々に会う今日は息抜きのために勉強から解放されたらしい。
「というわけで、早速皆でゲームしようぜ!!」
私の肩を抱き抱え、陽介が準備していた座布団へとともちゃんは私を誘導する。そして、そのすぐ隣へと自分用の座布団を移動させ、その上に腰を下ろすともちゃん。
「ふふん」
「・・・・・」
私の体にピッタリと自分の体をくっつけながら、ともちゃんは陽介に向かって謎の視線を飛ばす。
「そういえばさ、なっちゃん、今日はスカートじゃないんだ?」
「え?うん、まあ・・・」
「もしかして、前に私が言ったの覚えててくれた?」
ともちゃんの問い掛けに、私は小さく頷く。
「そっかそっか、そっかぁ~~」
「「・・・・・」」
久しぶりに勉強から解放されたためか、その日のともちゃんは終始テンションが高かった。昔っからお調子者でテンション高めの彼女ではあったけれど、その日はいつもの五割り増しくらいで高かった気がする。
「ちょっとおトイレ行ってくるねぇ~」
そうして数時間にもおよぶゲームの後、ともちゃんは一人でトイレへと旅立っていく。
「ねえ、陽介。今日のともちゃん、何かテンションおかしくない?」
私の問い掛けに対し、陽介は何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
「いやまあ、何ていうか・・・」
「・・・・・」
「う~ん・・・」
「・・・・・」
私の顔から視線を逸らし、それを壁やら天井やらに彷徨わせる陽介。
「なあ、夏姫」
「ん?」
「おまえ、あいつから告白された?」
「・・・・・」
陽介からのストレートな問い掛けに、私は思わず言い淀む。
「あいつが夏姫のことが好きなのは、知ってたから」
「・・・・・」
「昔、直接本人から聞いたこともあったしさ。で、去年のアレコレとか今のコレだろ?あいつ、明らかに夏姫といる時のテンションがおかしくなってるからさ」
「・・・・・」
これは、何て答えればいいんだろう・・・。
「前回三人で会った時にもさ、俺、何か変な対抗心燃やされてたっていうか・・・」
「え?」
「あいつ、無駄に独占欲も強いから・・・」
どこか疲れた様子の陽介に、私は掛ける言葉が見つからない。
「当人同士がそれでいいんなら、俺からは特に言うことはないんだけどさ。でも、あいつは自分本位で暴走しがちだし・・・」
「陽介・・・」
「だからまあ、何か困ったことがあったら、また相談してくれ。できる範囲で力になるからさ」
「・・・・・」
お昼をご馳走になり、夕方まで三人で遊び、その日も陽介のお母さんに送ってもらうことになった。
「なっちゃん、またね?」
陽介の家の玄関先で、ともちゃんは私に抱き着いてくる。そのまま自然な流れで唇を重ねてきて、ともちゃんは足早に去っていった。
「・・・・・」
去っていく幼馴染を茫然と見送る私は、言葉を発することができない。幼馴染の女の子から向けられる強烈な好意に対して、私は依然として答えを見つけられずにいた。