第78話:翌日
夜が明けて日が昇り、今は修学旅行の二日目。私たちはいつものメンツ四人で、著名な史跡を巡っていた。
「おぉ~、これがあの銀閣寺・・・」
「話に聞く通り、全然銀色じゃないね?」
四人での行動といっても、それは史跡のある土地の範囲内でのこと。目的地まではバスに乗って集団で移動するし、見学が終わったらバスの所へと集合し、次の目的地までは再び集団で移動する。
「それにしても、凄い人だねぇ・・・」
「そうだねぇ・・・」
私たちの視線の先には、大葉中学同様に修学旅行でここを訪れたのであろう他校の学生たちの姿があった。そんな学生たちの中にチラホラと見え隠れする見慣れた制服を視界の端に捉えながら、私たちは移動する。
「わぷっ?!」
「ちょ?!夏ちゃん大丈夫?!」
私たちの目の前に広がるのは、人、ひと、ヒト!!如何せんここには観光目的の人たちが多いため、雪ちゃんたちと逸れないように移動するだけでも背の低い私は大変なのである。
「ほら、夏ちゃん、手を繋ごう?」
「えぇ・・・」
「いいから早く!!」
「・・・・・」
私たちとそんなに歳が離れていないであろう大勢の学生たちや、背が高くてがっしりとした体格の外国から来た観光客たち。そんな人たちの合間を雪ちゃんに手を引っ張られつつ、私は羞恥に悶えながら進む。
「はぁ~、疲れた・・・」
そうして人の流れに沿うように足早に進み、早々に見学を終えた私たち四人。そんな私たちがバスの元へと戻ると、そこには私たち同様に早くも見学を終えたグループがいた。
「あら?もう戻ってきたの?」
そう言って声を掛けてきたのは、昨日私たちに悪魔の本を手渡してきた枕崎さん。
「そういう枕崎さんも、早かったね?」
私たちのグループはそもそも歴史とか貴重な史跡とか、そういったことに一切合切興味がない子たちばかりだからねぇ・・・。でも、枕崎さんはこういったものが好きそうなイメージなんだけど、意外だな・・・。
「人が多過ぎてゆっくり見れないし、それに、木村さんのこともあるしねぇ~?」
枕崎さんが視線を向けた先には、他の女子たちと会話する木村さんの姿があった。
「木村さん、大丈夫そう?」
「まあ、何とかね・・・。一晩寝てちょっとは落ち着いたみたい」
昨日はゲロ事件とその後の男子たちとのアレコレのせいで、木村さんはだいぶ参っていたみたいだしなぁ・・・。
「一応、あれから私も色々と話して、元気付けようと頑張りはしたんだ。元はと言えば、私が例の本を木村さんに貸したのが原因だし」
枕崎さんはそう言いつつ、眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をする。
「私の秘蔵の品を貸す約束もしたし、アレで元気になってくれるといいんだけど・・・」
その後、私たちは夕方近くまで複数の史跡を順繰り巡り、京都の街並みを堪能した。どこもかしこも人混みで大変だったけれど、それはそれで旅行っぽくて味わい深いものがあった。
「はぁ~、何だかんだで修学旅行も明日で終わりかぁ~」
大きな湯船にイツメンの四人で並んで浸かりながら、桜ちゃんが呟く。
「そうだねぇ~。最初はどうなることかと思ったけど、意外と楽しかったよねぇ~」
お湯の中でたぷたぷと大きな胸を揺らしながら、彩音ちゃんが呟く。
「そういえばさ、昼間に委員長が言ってた例の本って、何のこと?」
彩音ちゃんの胸を眺め、自身の胸へと視線を戻し、大きな溜息を零しながら桜ちゃんが訊いてくる。
「いや、アレは・・・」
そして、雪ちゃんと二人で言い淀む私。
「詳しいことは、枕崎さん本人に訊いてほしいっていうか・・・」
「そうだねぇ・・・。アレはちょっと私たちの口からは説明できないねぇ・・・」
湯船から上がり、体を拭いて部屋へと戻り・・・。
「私、ちょっと委員長たちの部屋に行ってくる!!」
そうして元気よく旅立っていった桜ちゃんを、私と雪ちゃんは複雑な心境で見送るのだった。