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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第四章:修学旅行とエトセトラ
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第73話:動揺・・・

「・・・・・、暇だ」


 私のすぐ隣で窓の外を眺めながら、雪ちゃんが呟く。


「ねえ、夏ちゃん。これ、あとどれくらい掛かるの?」

「う~ん?そうだねぇ・・・。予定だと、あと三時間くらいかな」


 初めのうちは添乗員さんが準備したちょっとしたゲームとか、これから向かう先の京都に関する豆知識の話とか、そういったもので暇を潰せていたんだけれど、それも既に一時間以上前の話。今はバスの前方に設置されたテレビで垂れ流されている昔のドラマを視界の端に映しながら、各自思い思いに過ごしていた。

 

「暇なら、トランプでもする?」

「トランプって、二人だけで?」


 今私たちがいるのは、バスの丁度真ん中辺りの座席。桜ちゃんたちは私たちの席の真ん前の席に着いているため、いつもの四人でトランプ遊びをするにはだいぶ不便ではある。


「それなら、着くまで寝とく?」

「いや、眠くないし。寧ろ目が冴えまくってるし」


 やや寝不足気味の私と違って、雪ちゃんは昨日もぐっすりと眠れたようである。実に羨ましい。


「あの、もしよかったら、これ読んでみる?私、こういう時のために何冊か本を持ってきといたんだ」


 私たちの会話が聞こえていたのだろうか、隣の席からそう言って声を掛けてきたのは、同じクラスの女子生徒である枕崎まくらざき 香奈恵かなえさん。彼女は非常に真面目な性格であり、私たちのクラス委員長であったりもするのだけれど・・・。


「この本って・・・」


 渡された本を見て、私は絶句する。お洒落なブックカバーに隠されたその本の中身は、超絶濃いBL漫画だった。


「うふふふふ」

「「・・・・・」」

「うふふふふふふ」

「「・・・・・」」


 渡された本のうち一冊を雪ちゃんへと手渡し、私は恐る恐るその本を読み進めていく。


「どう、二人とも?」

「いや、どうって・・・」

「とっても刺激的で、目が離せなくなるでしょ?」

「「・・・・・」」


 何だろう、この感覚は・・・。見ちゃいけないのに、ついつい目が離せなくなってしまうというか・・・。


「夏ちゃん、これ、ヤバいよ・・・」

「うん・・・」

「これ、絶対にR18なやつだよ・・・」

「うん・・・」


 普段、割としょうもない下ネタを言っている雪ちゃんが、狼狽していた。私の従妹はエロ大魔王である桜ちゃんと共に過ごすことでその耐性を獲得してきたらしいのだが、そんな雪ちゃんが今、激しく動揺していた。


「あ、あの、枕崎さん?」

「ん、何?」

「これって、中学生でも大丈夫なやつ?」

「うふふふふ」


 メガネをクイっと押し上げ、私たちに向かって妖艶な笑みを浮かべる枕崎さん。


「バレなければ問題無いわ」

「「・・・・・」」

「それに私、もうそれくらいの刺激がないと満足できなくて」

「「・・・・・」」


 よくよく見てみると、枕崎さんの隣に座る女子生徒も顔を真っ赤にしながら一冊の本を読み進めていた。彼女は目を大きく見開きながら食い入るようにしてその本を凝視し、鼻息を荒くしながらページを捲っていく。


「この本、中々人に勧めるのが難しくて・・・。だから、こういう時でもないと同志を増やせないのよ」

「ど、同志・・・」

「うふふふふ、ようこそこちら側へ。歓迎するわよ、二人とも?」

「「・・・・・」」


 それから約十分後、気が付くと私は二冊目の本を手にしていた。


「「・・・・・」」


 雪ちゃんと二人でイケナイ本のページを捲りながら、私はこの世の深淵の一端を覗き見るのだった。

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