第7話:気遣い
幼馴染であるともちゃんを見送り、同じく幼馴染である陽介に見送られて、僕は自分の家へと帰還する。
「・・・・・。あ゛っづい・・・」
零れ落ちる汗を拭いながら脱衣所へと向かい、そのまま浴室へと突撃し、汗みずくとなった体を温いシャワーの水で洗い流していく。
「ふぅ~」
今は、午前十一時ちょっと過ぎ。終業式と短いホームルームと夏休み前の大掃除と、それだけを終えた僕たちは文字通り自由の身となった。
「お昼は、面倒だからパンでいっか」
バスタオルで体中の水滴を拭い、適当な服に着替え、僕は冷蔵庫のある台所へと向かう。
「・・・・・」
窓から差し込む日の光で照らされた部屋の中に、一人っきり。そんなどこかうら寂しい空間で、僕はあらかじめ買い置きしておいた食パンにジャムを塗ってモソモソと齧る。
「父さんは、いつも通りか。母さんも、今日は遅そうだな・・・」
いつも通り仕事が忙しい両親は、今夜も帰りが遅いらしい。主に夕食の準備や洗濯のアレコレを管理するために設けられた一色家のグループメッセージを見て、僕は小さく溜息を吐く。
「洗濯くらいはやっておくか。夕ご飯は、野菜炒めでも作るかな」
夏休み期間中であろうとそうでなかろうと、ウチのルーティーンは変わらない。両親の帰りが遅いのであれば僕はできることをし、毎日クタクタになって帰ってくる愛すべき家族たちを労うのみ。
「・・・・・、ふむ・・・」
昼食に使った皿を片付け冷蔵庫の中身を確認し、そのまま脱衣所へと戻り洗濯機のスイッチを入れる。
「あ、もしもし?僕、ちょっと買い物に行ってくるから遅れるよ」
「え、買い物?もしかして食材の買い出し?」
「うん、そう。ちょっとスーパーに行ってくるから、三十分くらい遅れるかも」
「ふ~ん?そっか・・・」
今か今かと僕たちの到着を待つともちゃんには悪いんだけど、僕は行かなきゃならないんだ。だって、冷蔵庫の中身が心許ないからね。
幼馴染への連絡を終え、僕は改めて冷蔵庫の中身を確認する。そのまま買うべき物を吟味し、スマホのメモアプリへと箇条書きにしていく。
「母さんたちへのメッセージはOKと・・・。じゃあ、行きますかねぇ~」
買い物がダブらないように両親へのメッセージを残し、僕は買い物用のバックを肩に掛ける。そして、再び地獄のような暑さの外へとその一歩を踏み出す。
「あれ?二人ともなんでいるの?」
そうして外へと足を踏み出した僕の視線の先には、普段着へと着替え終えた幼馴染たちの姿があった。
「なっちゃんが買い物行くって言うから、急いで来た」
「知美からさっき電話が着て、急いで来させられた」
ともちゃんは薄っすらとはにかむように、陽介はどこかぶっきら棒に、そう短く答える。
「外は暑いから別にいいのに」
「だからでしょ?なっちゃんはひょろひょろのガリガリなんだから、荷物持ち手伝ってあげるわよ。陽介が」
「おい・・・」
左右の両脇を幼馴染たちに挟まれたまま、僕は近くのスーパー目指して足を進める。
「なっちゃんのお母さんたち、仕事休めそう?」
「いや、厳しいんじゃないかな。休み自体はあるけれど、連休はたぶん無理」
昔は、三家族揃って泊りがけの旅行とかもしたんだけれど・・・。ここ最近は特にウチの両親の仕事が忙し過ぎて、それも実現不可能となっている。
「学校の先生って、大変なんだね?」
「うん。ウチの親も、学校の先生にだけは絶対になるなって言ってる」
「そっか・・・。今度、斎藤先生に優しくしてあげよ」
「うん、そうしてあげて」
両親が帰ってくるのはいつも夜遅くて、なんなら休みの日も学校へと出掛けていって・・・。いつも家に一人でいる僕を、この幼馴染たちとその家族は気に掛けてくれている。
「二人とも、ありがと」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもない」
「ふ~ん?」
僕の小さな呟きが二人に聞こえたのかどうなのか、それは分からない。だけれど・・・。
「「「・・・・・」」」
僕を両隣から挟み込む二人の幼馴染たちはその頬を少しだけ赤く染めながら、僕に向かって優し気に微笑んでいた。