第68話:限界
五月上旬のとある日の放課後、私たち四人は図書室にいた。
「ここがこうでぇ~、あれがどれで?」
「ああでもないこうでもない、あれでもないこれでもない・・・」
先生たちから出された各教科の宿題に、私たちは頭を悩ませていた。いや、頭を悩ませるのは数学とか英語くらいで、他の教科はちょっと教科書を捲ればそこまで苦労はしないんだけどさ。
「夏ちゃん、ここどうやって解くのぉ~?」
「ごめん、そこはまだ私も解けてないや」
「オ~マイガ~~?!」
何度でも言うけれど、私は特別頭の出来が良いわけではないのだよ?!私は天才型ではなくて、毎日コツコツと積み上げる努力型なのだよ?!
「とりあえずなんだけどさ、先ずは解ける教科から始めたら?今日は国語の漢字の宿題が出てるじゃん?それは調べれば一先ず解けるじゃん?」
本当はただ解くだけじゃなくて、しっかりとその漢字を覚えないと意味はないんだけれど・・・。でも、今は私の手が回らないから、できることからやるしかない・・・。
「「「う~~ん」」」
「・・・・・」
「「「う~~ん???」」」
「・・・・・」
そうして約一時間に渡り、私たちは宿題と格闘した。あまり遅くまで残ると暗くなっちゃうし、続きは各自家で頑張ってもらうことにしよう。
「ありがとう夏姫ちゃん!数学だけだけど、何とか宿題が終わったよ!!」
「うん、良かったね・・・」
「本当にありがとう!あとは英語と国語のやつだけだ!!」
「・・・・・」
飛び跳ねながら喜ぶ桜ちゃんと彩音ちゃんを見て、私は何とも言えない気持ちになる。
「二人とも、ちょっとだけいい?」
「ん、何?」
「言い難いんだけどさ、もしも二人が本気で大宮を目指すなら、たぶん私だけじゃ手に負えない。私自身大宮は割とギリギリなラインだし、雪ちゃんの勉強も見てあげたいし」
私たち中学生にとって、高校受験というのは文字通り中学生としての集大成である。しかも、取り返しのつかないガチのビッグイベントである。
そんな高校受験において、私は私で割といっぱいいっぱいなのである。詰まる所、私以外の三人の勉強を同時に見るなんて凡庸な私にはできっこないし、そもそもそんなことすべきじゃない。
「そっか、それもそうだね・・・」
私の言葉に、桜ちゃんはそう言って顔を俯かせる。
「何か、ごめんね?私たち、ちょっと軽く考え過ぎてたっていうか」
そう言って、彩音ちゃんも私に向かって頭を下げてくる。
「あ、いや・・・。別に謝ってほしいとか、そんなんじゃなくて」
私も勉強見るよって言っちゃったし、でも、やっぱりそれは無責任過ぎたなぁ~って・・・。
「家に帰るまでの時間とか、それくらいなら見てあげれるんだけどさ、それだけじゃ絶対に足りないと思うから」
「「・・・・・」」
「だから、もしも本気で大宮を目指すなら、家の人とかに相談が必要かなって」
「「・・・・・」」
私の言葉に、桜ちゃんと彩音ちゃんは頷いている。
「そうだね・・・。せっかくなら、高校も皆で一緒に行きたいし・・・。私、帰ったらお母さんたちに相談してみるよ」
そう言って、桜ちゃんはニカっと笑う。
「私も、帰ったら相談してみる。正直勉強は嫌いだけど、まだ皆と離れたくないし」
そう言って、彩音ちゃんもニコっと笑う。
「だから、夏姫ちゃんも無理のない範囲で手伝ってよ」
「うん、分かった」
「んじゃ、そういうことでよろしくぅ~~!!」
「また明日ね?バイバ~~イ!!」
元気よく手を振りながら、二人は帰っていった。
「皆で、同じ高校に行けたらいいね?」
「うん」
「私たちも帰ろっか?」
「・・・・・、うん」
すっかり赤くなってしまった空の下、私と雪ちゃんは家を目指して歩みを進める。
「ふんふんふふ~ん」
そうして家を目指す私の隣からは、機嫌良さそうな従妹の鼻歌が絶えることなく響き渡っていた。