第67話:ディープなヤツ
雪ちゃんによって唇を奪われたその翌日の昼休み、私たちはいつもの四人で集まっていた。
「へぇ~、じゃあ、雪も大宮を受けることにしたんだ?」
「うん、そうなんだよ。夏ちゃんから熱烈な告白を受けちゃったからね!!」
「ほぉ~、熱烈な告白ねぇ~?」
「そうなんだよ!二人で熱いベーゼも交わしちゃったし、これはもう頑張るしかないっしょ!!」
あることないこと好き放題宣いながら、我が従妹様は二人の女子たちに昨日の出来事を面白可笑しく話している。そして、そんな従妹様の話をこれまた満面の笑顔で聞きながら、二人の女子たちは意味深な視線を私の方へと投げ掛けてくる。
「キスって、舌も入れた?」
「入れた!!」
はい!ダウトォーーーーッ!!
「どんな味がした?」
「ハンバーグの味がした!直前の夕食で食べたヤツ!!」
それは、本当かもしれない・・・。歯は磨いたけど、ううん・・・。って、いやいや、舌は入ってないから?!半分くらいは嘘だから?!
「いいなぁ~、ディープキスかぁ~~」
いやだから、してないって?!舌とか入ってないから?!
「でも、キスはしたんでしょ?」
「うっ、それは・・・」
それは、そのぉ・・・。
「二人とも大人だなぁ~。私と彩音なんて、まだほっぺにチュウくらいしかしたことないのにさ」
そう言って、桜ちゃんは彩音ちゃんに同意を求める。
「え?」
「え?」
「・・・・・」
「・・・・・」
そして、何故か突然微妙な空気になる二人。
「保育園の年長組の時と小学校低学年の時に、したのに・・・」
「あ、彩音さん?」
「あの時のこと、もう忘れちゃったんだ?」
「・・・・・」
この二人、保育園の時からの付き合いなんだ。へぇ~、結構長いこと一緒なんだなぁ~~。
「私のことは、遊びだったのね?!」
「ち、違う!私は、本気で彩音のことがっ?!」
「嘘つき!ファーストキスどころかキスした事実すらも忘れていたのに!!」
「あ、彩音・・・」
わざとらしい寸劇が、また始まった。この二人は本当に仲が良く、付き合いの長さからくるのだろう阿吽の呼吸でもって、面白可笑しい即興劇を極稀に私たちに披露してくれる。
「私のことなんて、本当はどうでもいいんでしょ?!」
「違う!私は本当に彩音一筋なんだ!!」
「嘘よ!本当は、どこの馬の骨とも知れない男のことが好きなんでしょ!!例えば、あそこで独り寂しく黄昏ている新地とか!!!」
突如として、何故か巻き込まれた新地君。彼は二年時から引き続き私たちと同じクラスとなり、今は何故か窓際で一人黄昏ていた。
「何だよ、呼んだか?」
「「「「いや、全然」」」」
「・・・・・」
「「「「・・・・・」」」」
ごめんよ新地君。意味もなく突然巻き込んで。
「まあ、そんなわけだからさ。私は今後大宮目指して頑張るよ」
「お、おおぅ」
「てなわけで、私立受験の君たちとはここでオサラバじゃ」
「「・・・・・」」
そして、何の脈絡もなく私たちの話題は高校受験の話へと戻ってくる。
「オサラバって、雪、本気で言ってるわけ?」
「本気っていうか、事実だよ?だって、二人は大宮受けないっしょ?」
「「ぐっ・・・」」
二人の視線が、私の顔へと向けられる。
「夏姫ちゃん、どうか、どうか・・・。私たちにも勉強を教えてください」
「私たち、このクソ野郎をギャフンと言わせたいんです」
「だから、お願いします!この通りです!!」
「です!!」
いやまあ、勉強を教えるのは構わないんだけど・・・。私、別に飛び抜けて成績が良いわけじゃないからね?
「大丈夫です!だって、皆夏姫ちゃんよりもバカだから!!」
「そうそう!だから、無問題だよだぶん!!」
こうして私たちは、四人揃って大宮高校を目指すこととなった。ただ、繰り返し言っておくけれど、私は決して勉強の出来が特別良いわけではなく、そこだけはキッチリと理解しておいてほしいなぁ~と、心の底から思う今日この頃なのであった。