第61話:桜色の季節
ここから第四章(61話~80話)、中学三年生編となります。相も変わらずのんびり進行で恋愛要素も薄いのですが、気長にお付き合いください。
寒かった冬が終わり、今はピンク色の花桜が舞う四月上旬。私たちは、中学三年生になった。
「おぉ~、やった!今年も皆と一緒のクラスだぜい!!」
旧二年生のクラスで悲喜こもごものクラス発表を聞き、そのまま荷物を持って新しい教室へと向かう私たちいつもの四人。
「はぁ~、今年はいよいよ受験生かぁ~~」
「ちょっと彩音、嫌なこと思い出させないでよぉ~~」
廊下を歩く新三年生の面々は、実に様々な表情を浮かべていた。ある人は再び気の合う面々で学校生活を送れることに喜びを爆発させ、また別の人は来年に迫った受験という現実にその表情を曇らせている。
「夏姫ちゃんはもうどこ受験するか決めた?」
「うん、一応」
「へぇ~、どこどこ?」
「私は大宮を受ける予定。大学までは行くつもりでいるから」
憂い顔を浮かべる桜ちゃんの問いに対し、私はそう答える。本当はまだ仮決まりなんだけど、他に本命も無いしなぁ~。
「う~ん、大宮かぁ・・・。ちょ~っと私には厳しいかもしれないなぁ・・・」
「いや、そんなことはないと思うよ?きちんと勉強さえすれば、特別に入学が難しい学校じゃないはずだし」
「いやいや、私勉強苦手だし。二年生最後のテストなんて、それはもう悲惨だったし・・・」
そう言って、桜ちゃんはその表情をより一層曇らせる。そしてそんな桜ちゃんに引きずられるように、雪ちゃんと彩音ちゃんもその表情を曇らせる。
「ま、まあ、私たちは最悪いい感じの私立に行けばいいし?」
「そうそう!仮に県立に落ちたとしても、私立があるし?」
彩音ちゃんはともかくとして、雪ちゃんのそれはマズいんじゃない?雪ちゃんのお母さん、絶対に県立に行けって言ってなかったっけ?
「・・・・・」
それに、もしも雪ちゃんたちが私立に行くんだとしたら、私たち別々の高校に行くことになるけど・・・。
「ぐっ、それは・・・」
せっかく仲良くなれたんだし、特別目指したい高校がないんなら、できれば皆で一緒の高校に行きたいなぁ~?
「「「・・・・・」」」
黙りこくってしまった三人に、私は悪戯っぽい笑みを投げ掛ける。そんな私の笑みを見た三人は露骨に視線を逸らし、各々早口で捲し立て始めた。
「この話は終わり!受験なんて、まだ先の話だし!!」
「そうそう!それに、受験なんかよりももっと大事なことがあるし!!」
受験よりも大事なこと?
「来月末には、修学旅行だってあるし!!」
「そうそう!皆で京都に旅行!!」
「受験のことなんて、それが終わった後でも全然大丈夫だし?」
そんなこんなでワイワイと廊下を進み、私たちは新しい教室へとやって来た。そこは既に卒業してしまった旧三年生たちが使っていた教室であり、先日行われた卒業式の余韻もあってかどことなくしんみりとした空気が漂っていた。
「はい、それじゃあ皆、一旦適当に座ってちょうだい。正式な座席決めはこの後のホームルームで行うから」
そう言って、再び私たちのクラス担任となった前原先生がパンパンと手を叩く。
「よし、全員いるわね?それじゃあ改めまして、皆のクラス担任になった前原です。これから一年間、よろしくね?」
雪ちゃんたちに引きずられて、一番後ろの列の席へと腰掛けた私。そんな私の視線の先には、去年と殆ど変わらない面々の背中があった。
「殆どの人たちが顔見知りだし、今更だとは思うんだけど・・・。でも、せっかくの機会だし、改めて一人ずつ自己紹介といきましょうか」
廊下側の前の席から、一人ずつその場に立って自己紹介を始めるクラスメイトたち。一人当たり一分あるかどうかの短い自己紹介は、やがて私の順番となり・・・。
「改めまして、一色 夏姫です。殆どの人が一緒のクラスだったので知っている人も多いと思うのですが、今年もよろしくお願いします」
肩甲骨くらいまで伸びた真っ黒な髪の毛を揺らしながら、私はそう言って軽く頭を下げるのだった。