第6話:夏休み
「夏休みだぁーーっ!うぇ~~い!!」
終業式も終わり、本日は大人の事情により校内に残っての部活動も禁止。そんな理由もあってかいつも以上に家路を急ぐ生徒たちで溢れ返るその道で、僕の幼馴染であるともちゃんが奇声を上げる。
「ちょっとともちゃん、ヤメてよ恥ずかしい」
「えぇ~、何でよぉ~」
「何でって、恥ずかしいじゃん」
「えぇ~~」
彼女自身の奇声によって集まった視線をものともせず、ともちゃんはその頬を不満げに膨らませる。
「別にいいじゃん。私以外にもほら」
そんな不満げな顔の幼馴染が指差したのは、彼女同様に夏休みに入りたてでテンションがおかしくなった我が校の生徒たちであった。
「ね?」
「・・・・・」
「私だけじゃないでしょ?」
「いや、そうなんだけどさ・・・」
生徒たちでごった返す道を抜け、日中故なのか人通りの疎らな駅前を通り、僕たちはそれぞれの家を目指して足を動かす。
「てかさ、なっちゃんと陽介、部活辞めたんでしょ?」
「ん?ああ、そうだけど」
「だったらさ、夏休みはいっぱい遊べるね?」
「いや、お前はちょっとくらい部活行っとけよ。でないと、バドミントン部本当に解散になるぞ?」
バドミントン部の顧問は確か、斎藤先生だったっけ?廊下で何度か擦れ違ったことはあるけれど、あの先生の授業は受けたことないからよく知らないんだよなぁ~。
「大丈夫大丈夫!仮に解散になっても、別に誰も困らないから!!」
「えぇ・・・」
「斎藤先生も、寧ろ顧問をやらなくて済むから助かるかも!あの先生、滅茶苦茶運動オンチだから!!」
「「・・・・・」」
額から無限に零れ落ちる汗をタオルで拭い、拭いきれなかった汗によって不快指数を爆上げしていく制服の胸元を手で仰ぎ、そうしてようやく目的地へと辿り着いた僕たち三人。
「シャワー浴びてお昼ご飯食べたら、私の部屋に集合ね?」
「別にいいけど、またゲームか?」
「そう!夏休み初っ端から三人でゲーム!!夏休みの宿題なんてものはゴミ箱にポイだよ!!!」
その瞳をキラキラと輝かせながら、ともちゃんは力強く宣言する。
「この夏、私は、一切の勉強をしない!!」
「「・・・・・」」
「この夏、私は、全力で遊びきる!!」
「「・・・・・」」
ともちゃん、去年はギリギリまで宿題してなかったよな・・・。で、結局僕と陽介がその尻拭いをさせられたんだっけ・・・。
「ねえ、陽介」
「ん、何だ?」
「今年は、ともちゃんの宿題には一切手を貸さないことにしよう」
「おう、そうだな」
ルンルンと、擬音が付きそうなくらい浮かれた足取りのともちゃんを陽介と共に見送りながら、僕は決意する。
「夏休みの最終日、アイツが泣き喚く姿を俺たち二人で楽しく眺めてやろうぜ?」
悪魔のような笑みを浮かべてそう呟く陽介に、僕も同じような笑みを浮かべながら頷き返すのだった。