第59話:一先ずの和解
女性の裸については、自分ので慣れた。毎回トイレやお風呂の際に嫌でも目にすることになるし、それを一々気にかけていたら身が持たないしキリがない。
一方で、他人のそれも大丈夫かと聞かれたら、それはまだ自信がない。雪ちゃんの裸やクラスメイトたちの下着姿で多少の耐性はできてると思うんだけど、さてどうだろう?
だけど、今問題なのはそこじゃない。問題なのは、私が見る側じゃなくて今は見られる側にいるってことなのだ。
私がまだ男子だった頃には、陽介と一緒にお風呂に入る機会もあった。その時には勿論お互いの裸も見合ったし、だけど別に何も感じなかった。
私が女になってからは、病院での出来事を除けば従妹の雪ちゃんに見られたくらいかな。初めこそ恥ずかしくて嫌な思いもしたけれど、良くも悪くも明け透けな従妹は気にするだけ無駄だしなぁ・・・。
そして今、私は剥き出しにされた股間を幼馴染の女の子であるともちゃんにガン見されているわけなのだけれど、もう恥ずかしくて死にそうである。あの雪ちゃんにさえこんなにガン見されたことはないというのに、これはもう一種の拷問なのではなかろうか?
「ともちゃん、お願い・・・」
「・・・・・」
「もう、ヤメて・・・。お願いだから・・・」
「・・・・・」
たぶん、私が本気で暴れれば拘束は解けるのだろうけれど、そうするとともちゃんにケガをさせちゃうかもだし。陽介、助けてくれません?!その扉の鍵を開けて、何とかしてくれません?!
「本当に、本当に女の子だ・・・」
「・・・・・」
「何で、どうして・・・」
「・・・・・」
ともちゃんの拘束が緩んだ隙をついて、私は慌てて乱れた衣服を整える。
「ともちゃん、あの・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
ベッドから離れ力無く床へと膝をついた幼馴染に、私は掛けるべき言葉が見つからない。
「ごめんなさい、ともちゃん」
「・・・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「・・・・・」
だからもう、ただ謝ることしかできない。それ以外に、今の私にはできることが存在しない。
「謝らないでよ・・・」
「え?」
「別に、なっちゃんは悪くないんだから・・・。だから謝らないでよ!!」
涙と鼻水に濡れ、顔を真っ赤にしたともちゃんが、そう言って再び私にのしかかってくる。
「私が勝手に好きになっただけで、私が勝手になっちゃんを無視していただけで・・・」
「・・・・・」
「だから、なっちゃんは悪くない・・・。私が、私が悪い子なだけだから・・・」
「ともちゃん・・・」
私の真っ平な胸に顔を埋めて、ともちゃんは泣き続けている。
「ねえ、ともちゃん?」
「・・・・・」
「これ」
「・・・・・」
私は、近くに転がっていた私のバックの中から一つの包みを取り出し、それを開封してともちゃんへと手渡す。
「ハンカチ?」
「そう、ハンカチ」
「その箱は?」
「これは・・・」
本当は、もっとちゃんとした形で渡したかったんだけど。
「今日は、クリスマスだから」
「・・・・・」
「ちょっとアレなタイミングだけど、プレゼント」
「・・・・・」
私の渡した新品のハンカチは、ともちゃんの涙と鼻水によって一瞬で汚れてしまった。
「使い心地はどう?」
「・・・・・。悪くない・・・」
「そっか、良かった」
「・・・・・」
それから一時間ほど、私たちは会話らしい会話も無く二人して寄り添っていた。ともちゃんが落ち着くまでの間、ずっと・・・。
「なっちゃん、ごめんね?私、いつも勝手なことばっかり・・・」
涙も収まり、ようやく落ち着いた様子のともちゃん。
「今日はもう帰る。プレゼントありがとね?」
そう言って、ともちゃんは帰っていった。そして、そんなともちゃんを無言で見送る私と陽介。
「仲直り、できたのか?」
「ううん、どうだろ、分かんない」
再び二人っきりになってしまった部屋の中で、私と陽介は途方に暮れる。
「ん?」
「あっ」
そうして何とも微妙な空気の中で過ごしていると、私が念のためにと持ち歩いていた夏樹のスマホにメッセージが届いて・・・。
「ともちゃん・・・」
そこにはたった一言、「また三人で遊ぼう」と、それだけが書かれていたのだった。