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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第三章:秋の終わりと冬の訪れ
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第57話:税込み550円

 季節は更に廻り、本日は十二月の二十五日。そう、世間一般ではクリスマスとされるあの日である。

 そんな日の朝早くに私はいつもよりもちょっとだけお洒落をし、スマホの時計を眺めながら今か今かとその時を待っていた。


「じゃあ、行ってくるねぇ~」

「あいよぉ~、気を付けてねぇ~~」


 時計の針が午前八時を回った丁度その時間、私は雪ちゃんに見送られながら家を後にする。そしてそのまま徒歩で駅へと向かい、私は改札口の奥へと歩みを進める。


「はぁ~、電車とか久しぶりだなぁ~」


 その日は、残念なことに平日。昨日から冬休みへと突入している私たち学生とは違って、本日も仕事へと向かう大人たちによって電車の中は埋め尽くされていた。


「母さんたちも仕事って言ってたし、大人は大変だぁ~」


 私も、将来は彼等のように死んだ目をしながら仕事へと向かうのだろうか?母さんたちのように名ばかりの休日に職場へと呼び出され、断ることのできない激務を押し付けられるのだろうか?あぁ、大人になんてなりたくないなぁ・・・。


「間もなく~、次の駅に到着致します。電車とホームの間には隙間がございますので、お降りの際は~・・・」


 電車を降り、駅の改札口を抜けて、私は久々に実家のある街へとやってきた。


「よし、計画通り・・・」


 今の時間は、午前九時ちょっと過ぎ。駅前のモールやお店が開くにはまだ早いため、この時間であれば知り合いたちに遭遇する可能性も低いだろう。


「いっそげぇ~いっそげぇ~超いっそげぇ~」


 調子っぱずれな歌を口ずさみながら、私は目的の場所へと小走りで向かう。そうして辿り着いたのは、約四カ月ぶりに見る幼馴染の家。


「もしも~し、陽介?うん、今着いたぁ~」


 そして、久しぶりに見る幼馴染の姿。


「陽介、久しぶり」

「お、おぅ」

「家、上がっていい?」

「ああ、勿論」


 本当なら、ご無沙汰してしまっている陽介のご両親にも軽く挨拶しときたかったんだけど、二人とも仕事なんで仕方がない。私が直電するのもあれだし、陽介によろしく伝えといてもらうことにしようそうしよう。


「おぉ~、この部屋も何か久しぶりだぁ~~」

「そりゃ~夏休み始まってすぐに来た以来だから、当たり前だろ?」


 たった四カ月、されど四カ月・・・。どこか懐かしさを覚える男臭いその部屋に、私は今非常に感動している。


「とりあえず、これを・・・」

「おぉ、悪いな?」


 前もって買っておいたプレゼントを、私は陽介に手渡す。


「これは、クッキーか?」

「そう、向こうの駅前のお店で買ったやつ」

「ほ~う、どれどれ?」


 一箱五百円ちょっとで大ボリューム、甘過ぎずパサつかずほど良いしっとり感。偶にチラシも入ってるし、クラスの女子たちの間でも話題になってたからきっと美味しいはずだよ。


「せっかくだし、皿に出して一緒に食うか?」

「え、いいの?」

「俺一人で食うのも何だしな。ちょっと待ってろよ、ジュースも一緒に持ってくる」


 いやぁ~、悪いねぇ~~。私、そんなつもりは微塵もなかったんだけどなぁ~~?


「お待たせ」

「おぉ~」

「とりあえず、ゲームでもしながら話すか」

「おっけ~」


 久しぶりの、仲の良い幼馴染との楽しい時間。


「知美のことなんだけどさ」

「・・・・・。うん・・・」

「もう、無理矢理引っ張り出すしかないと思っててさ」

「・・・・・」


 私の買ってきたクッキーを食べながら、陽介の準備したジュースを飲みながら・・・。


「とりあえず、この後にでも知美の家に行って・・・」


 そうして、二人で話しながらゲームをして・・・。


「随分と楽しそうにしてるじゃない?」

「「え?」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」


 突然音もなく開いた扉の外から、聞こえてきた背筋が凍るような冷たい声。


「「「・・・・・」」」


 陽介、家の鍵くらい掛けといてよ・・・。私、まだ心の準備とかできてないよ・・・。

 鋭い視線で睨みつけてくるもう一人の幼馴染にビビりながら、私は心の中でそう呟くのだった。

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