第56話:十四歳
一人の一年女子による不穏な事件が解決してから、数日が経った。あれから小林さんが私に直接絡んでくることはなくなり、今のところは平和そのものである。鈴木君情報によれば特に変な噂も追加されていないみたいだし、この分なら大丈夫そうかなぁ~?
そんな感じで一先ず心の平穏を取り戻した私は今、家にいる。そして、従妹である雪ちゃんの誕生日を盛大に祝わされている。
「雪ちゃん、おめでとう!!」
「おめでとう!!」
今の時間は午後十九時半、仕事帰りの伯母さんと共に私は本日の主役へと精一杯の拍手とおめでとうを送っている。
「ありがとうお母さん!そして夏ちゃんも!!」
本日は十一月の二十三日、この日をもって我が従妹は十四歳となり、つまり私と同い年になった。いやぁ~、何だか感慨深いねぇ~。
「わぁ~お、ケーキなんて久しぶりだぁ~~!!」
「いや、偶にコンビニとかでスイーツ買ってるじゃん?」
「それはそれ、これはこれ」
いつもの三倍くらい高いテンションの雪ちゃんを眺めながら、私も伯母さんが買ってきたケーキへとフォークを入れる。うむ、美味い!!
「寿司にケーキにジュースに、はぁ~、毎日が誕生日だったらいいのに」
ケーキも食べ終え、空の容器だけとなったテーブルを見て、雪ちゃんは切なげな溜息を零している。
「毎日が誕生日だったら、あっという間に百歳だね?」
「むむ・・・、それは微妙かな?」
片付けを手伝い歯も磨いて、そのまま私は雪ちゃんに手を引かれながら彼女の部屋へと向かう。
「いやぁ~食った食った。たらふく食った、ゲフっ・・・」
部屋に着くなりベッドへと飛び乗り、その上で無意味にゴロゴロしながら大きなゲップを零す雪ちゃん・・・。
「あのさぁ~、雪ちゃんももう十四歳なんだから、もう少しお淑やかにできないの?」
「えぇ~、何で?」
「いや、何でって・・・。この前だって、いきなり私の目の前でオナラしてきたしさぁ~」
「いや、あれはただのギャグじゃん?」
人前でゲップだのオナラだの・・・。私の従妹には恥じらいだとか乙女らしさだとか、そういったものがあまりにも足りない。
「別にいいじゃん。女だからって、そういうの一切しないわけじゃないじゃん?夏ちゃんだってするっしょ?ゲップとかオナラとか」
「いや、それはそうだけどさ・・・」
「それに、私だって場所と人は選んでるよ。親しくもない人の前でこんなことはしないし、これは一種の愛情表現っていうか、親愛の証だよ」
「・・・・・」
それは何ていうか、別に嬉しくないっていうか・・・。
「そんなことよりもさ、夏ちゃんもプレゼントありがとね?」
「え?ああ、うん・・・」
「このハンカチ、中々にセンスあるじゃん?」
「それはどうも・・・」
ちょっと話を逸らされた感はあるけど、嬉しそうにしてるしまあいっか。
「あんましお小遣いがなかったから、安物なんだけどね」
「それはしょうがないよ、お小遣い不足は全国の学生たちの永遠の難題だからね。それに、その少ないお小遣いの中で如何に相手を喜ばせられるか、そこがポイントじゃん?」
そう言って、雪ちゃんは二カっと笑う。
「来年の夏ちゃんの誕生日、期待して待ってなよ」
「うん、期待しないで待っとくよ」
その後は二人で遅くまでゲームして、いい加減に寝なさいって伯母さんに二人して怒られて・・・。
「来年かぁ~」
私が雪ちゃんの家でお世話になるようになってから、もうすぐで三カ月になる。その短いようで長い期間に、従妹と伯母さんには本当にお世話になった。
「・・・・・。私も変わったなぁ~」
真っ暗なスマホの画面に映る長髪の自分を眺めながら、私は自身のベッドの上で独り言ちたのだった。