第54話:決着
重苦しい空気が漂う放課後の図書室で、私たち四人の話し合いは続いていた。
「何ていうか、超自分勝手じゃん」
小林さんの顔を見て、雪ちゃんは冷たく吐き捨てる。
「あなたが誰のことを好きだとか、誰と付き合いたいだとか知ったこっちゃないけどさ?でも、それで周りの人のことを悪く言うのは違うんじゃない?」
「・・・・・」
「あなたがしたことって、単なる八つ当たりじゃん?それってさ、滅茶苦茶カッコ悪くない?」
「・・・・・」
雪ちゃんによる真正面からのド正論を受けてもなお、小林さんは怯まない。先程までは鈴木君の放つ怒気に泣いて震えていたというのに・・・。
「それは解ってます。解ってるから、ああいうことをしたんです」
「「「・・・・・」」」
「私は悠君のことが好きで、悠君に嫌われたくなくて・・・。だから、それ以外はどうでもよくて・・・」
周りの空気が、更に重くなっていく。小林さんの話を聞けば聞くほどに、雪ちゃんの機嫌が悪くなっていく。
「あのさ、ちょっといい?」
だから、私は動いた。これ以上この不毛な遣り取りを長引かせないために!早く家へと帰って、布団に包まってヌクヌクしながら疲弊してしまった心を休めるために!!
「結局のところ、小林さん的には私とその男子が付き合わなければいいんだよね?だったら、私は鈴木君も含めて男子と付き合うつもりはないし・・・。だから、その点は安心してほしいっていうか」
私の言葉に、小林さんは僅かに目を細める。
「それは、どういう意味ですか?」
「どういう意味って?」
「男子と付き合うつもりがないって話です」
「それは、そのままの意味だけど?」
私は、鈴木君と付き合うつもりなんてない。勿論、新地君と付き合うつもりもない。
そもそも私は誰かと付き合うとか、それ以前に誰かのことが恋愛的な意味で好きだとか、そういった感情がまだよく解っていない。
「そっか・・・。じゃあ、あの話は本当だったんですね」
「え?何の話?」
「・・・・・」
「・・・・・」
意味深な視線を私に向けたまま、小林さんは黙りこくってしまった。
「と、とにかく、これ以上この話を続けても不毛っていうか・・・。私はその男子と付き合うことは絶対にないし、その点は小林さんにも理解してほしいっていうか」
「・・・・・」
「だから、小林さんにはこれ以上私に関わってほしくないんだよね。変な噂の件もそうだし、鈴木君の件も」
「・・・・・」
私が願うことは、たった一つ。それは、平穏な学校生活を送ること、ただそれだけ。
「・・・・・、解りました。今後はもう変なことはしません」
「「「・・・・・」」」
「すみませんでした。私、ちょっと暴走しちゃってたっていうか、周りが見えてなかったっていうか・・・」
ポケットから取り出したハンカチで涙を拭い、鼻水を拭き、小林さんは私たちに向かって頭を下げる。
「それじゃあ、お願いね?もしまた同じようなことをしたら、その時はその男子にも話し合いに参加してもらうから」
「う゛っ、それは・・・」
「お願いね?」
「・・・・・。はい、解りました・・・」
私が釘を刺したお陰か、小林さんはより一層神妙な顔つきとなって、再び私たちに向かって頭を下げてくる。
「これなら大丈夫そうかな?」
「だといいけどねぇ・・・」
私たちから視線を外し、今度は鈴木君に向かって頭を下げ続ける小林さんを見ながら、私と雪ちゃんは小声で言葉を交わす。
「本当に、本当にすみませんでした」
「いやまぁ・・・、一色さんが納得しているのなら僕はいいんだけど・・・」
一先ずこの件については、一応の決着がついたようである。ふぅ~、よかったよかった・・・。