第53話:答え合わせ
放課後の図書室に、女の子のすすり泣く声が響き渡る。それは重苦しかった空気をより一層重たくし、私たちの表情を曇らせる。
「あの、小林さん?結局のところ、あなたはそのゆう君て人のために動いてたってこと?」
雪ちゃんの問い掛けに、小林さんは小さく首を縦に動かす。
「つまりあなたは、ゆう君のために一色さんの身辺調査をして、その情報をゆう君に渡してたってこと?」
続けての質問に、今度は首を横に振る小林さん。
「え?どゆこと?ゆう君が一色さんのことが好きだから、鈴木君と付き合ってるのかどうかを調べてたんじゃないの?」
小林さんはその質問に対して、横にも縦にも首を振らなかった。
「「「・・・・・」」」
雪ちゃんと私は、顔を見合わせながら首を捻る。そんな私たちの眼前では、鈴木君も首を捻っている。
「これは、悠君に頼まれたんじゃなくて、私が勝手にやったことだから・・・」
「「「・・・・・」」」
うん、つまり、どういうことだってばよ?!
「私、悠君のことが好きで・・・」
「「「え?」」」
「だから、悠君から一色先輩のことを相談された時は、悲しくて、悔しくて・・・」
「「「・・・・・」」」
小林さんからの突然のカミングアウトに、私たちは固まる。う、うむ、そっかぁ・・・。
「えぇ~とつまり、好きな人から一色さんのことを聞いたあなたはそれが嫌だったから、色々と調べて回ってこの子のことを下げるような変な噂を流したの?」
「一色先輩のことを調べたのは、その通りです。だけど、噂を流したのはわざとじゃないっていうか、ただむしゃくしゃして、本当のことを友達についうっかり話しただけっていうか」
「「「・・・・・」」」
え?本当のことって何?小林さんの中では、私って下ネタ大好きの下品な女子なの?!
「だって、悠君がそう言ってたし・・・。教室の中で大笑いしながら下ネタ言ってたって。仲のいい女友達と下品な話をしてたって」
ほ~ん?なるほどね・・・。ゆう君、ゆう君、ゆう君・・・。そういえば、新地君の下の名前は悠大だったっけ?
先程雪ちゃんから聞いた情報と、今し方得た小林さんからの情報。この二つの情報から、私は一つの結論を導き出す。
「あの、一色さん?嘘だよね?その話」
「え、えぇと・・・」
「一色さん?」
「・・・・・」
驚きと困惑に満ちた鈴木君からの視線を、私は見返すことができない。ゴメンナサイ鈴木君、私はもう、汚れてしまったんだ・・・。
「別にいいっしょ下ネタくらい。私たちの間では普通だし。ね?夏ちゃん?」
「・・・・・」
雪ちゃん、ちょっと今は黙っててもらえるかな?
「だから、そんな下品な人と悠君がくっつくなんて許せなくて・・・。だから、先ずは鈴木先輩と付き合ってるのかどうかを調べようと思って・・・」
「「「・・・・・」」」
「そしたら、鈴木先輩がそれを邪魔してきて・・・。それだけじゃなくて、私のことを探ってきて・・・」
小林さんは、そう言って私へと視線を向けてくる。
「このことが悠君にバレたら、嫌われると思ったんです。私が一色先輩のことを悪く言ってるのがバレたら、嫌われるって・・・」
「「「・・・・・」」」
「だからあの日、一色先輩に話に行ったんです。私のことを鈴木先輩を使って探らせないように、悠君に変なことを吹き込ませないようにするために」
「「「・・・・・」」」
私たちに向けられた小林さんの顔は、涙と鼻水で汚れてしまっていた。彼女は零れ落ちる涙と垂れる鼻水を拭おうともせずに、困惑の視線を向ける私たち三人を睨み返していた。
「「「「・・・・・」」」」
私たちしかいない放課後の図書室に、重苦しい空気が漂う。そんな険悪な空気の中で、私たち四人の話し合いは続くのだった。