第52話:ゆう君??
とある日の放課後、いつもであれば人っ子一人見当たらない図書室に、四人の人影があった。
「あの、鈴木君?」
「ん、何かな?」
「何でその子も連れてきてるわけ?」
「いや、当人もいた方が話が早いかなって」
私たちが座るテーブルの正面に、鈴木君はそう言って何食わぬ顔で座る。そして、そんな鈴木君の隣へとビクビクした様子の小林さんが腰掛ける。
「状況が分からないから、先ずは三人で話そうって言ったんだけどね?」
「うん、僕もそう記憶してるよ。だけど、ここに来る途中で丁度小林さんを見掛けたから、ついでに連れてきたんだよ」
そう言って、鈴木君は小林さんの方へと満面の笑みを向ける。
「ひゃう?!」
鈴木君の視線をモロに受けた小林さんは、明らかに怯えていた。彼女は言葉にならない小さな悲鳴を零しつつ、その体を小さく震わせていた。
「とりあえず、先ずは小林さんから話を聞いて、全てはそれからかな?」
「うぅ~」
「別にさ、僕自身のことをどうこう言われるのは構わないんだけどさ。でも、関係のない人のことまであれこれ言われるのは気に食わないっていうか、物凄く腹が立つんだよね」
「・・・・・」
普段は温厚なはずの鈴木君から立ち上る怒気によって、小林さんは泣いてしまっていた。男子が女子を泣かせる図は見ていて正直アレだけど、そもそも小林さん側から仕掛けてきたことだしなぁ・・・。
「私、私はただ、一色先輩が鈴木先輩と本当に付き合ってるのかどうか知りたくて、それで・・・」
うん、だから、付き合ってないって言ったよね?
「クラスメイトとか、文芸部の人たちが、二人は付き合ってるって言ってたから、だから・・・」
・・・・・。
「僕と一色さんが付き合ってたら、君に何かあるの?」
「え?」
「仮に僕たちが付き合っていたとして、それが何か問題でも?」
「・・・・・」
泣いている一年生女子に対しても、鈴木君は容赦がなかった。彼は眉間に深い皺を作りながら、致命傷を負った様子の女の子を更に追い詰めていく。
「僕と一色さんは、ただ本の話をしていただけだったんだ。僕たちは文芸部だからね」
「先輩・・・」
「それにさ、文芸部って実際のところは皆サボリの帰宅部でしょ?だから、本好きの僕としては一緒に本の話ができる一色さんとの時間が楽しくて、本当にただそれだけだったんだよ」
鈴木君・・・。
「一色さんともっと本の話がしたい。より正確に言うと、誰とでもいいから本の話題で盛り上がりたい。そんな僕の我儘だったんだ。だけど、そのせいで一色さんにまで迷惑を掛けちゃって、それが堪らなく悔しくて、許せなくて・・・」
そう言って、鈴木君は眉尻を下げる。
「もう一度訊くよ?小林さん、君は何でこんなことをしたんだ?」
「・・・・・」
「僕と一色さんのことを噂していた人たちについては、他にもいたみたいなんだよね。だけど、ただそれだけだった。君のように一色さんを脅したり、周りに不快な噂を流すようなことをした人はいなかった」
「・・・・・」
椅子を傾け、小林さんを正面に捉えて、鈴木君は再度口を開く。
「何で君は、一色さんのことを下ネタが大好きな下品な女子だって噂を流したんだ!!」
「「え?」」
「そんな根も葉もない酷いことを、どうして・・・」
「「・・・・・」」
下ネタ大好き?下品?
「だって、だって・・・。悠君がそう言ってたから!!」
ゆ、ゆう君?
「悠君が気になる子がいるって・・・。それで相談を受けてて・・・」
「「「・・・・・」」」
「だから、その子のことを調べてて・・・。そしたら、付き合ってる人がいるって聞いたから・・・」
「「「・・・・・」」」
それっきり、小林さんは黙ってしまった。
「ねぇ、ゆう君て誰?」
「さぁ?」
鈴木君の問い詰めに対して、誰もが予想していなかった答えを返してきた小林さん。図書室の中には彼女のすすり泣く声だけが響き渡り、辺り一帯はより一層混迷を深めていくのだった。