第50話:危機
一年生の女子である小林さんにガッツリと脅迫されたその日の放課後、私と雪ちゃんはいつもの如く家へと直行していた。
「とりあえず、荷物だけ置いたら私の部屋に来なよ」
「うん・・・」
昼休みの出来事は、ともすれば私の人生を一瞬で破壊するほどの危険性を秘めていた。そんなわけであの話を教室内でできるはずもなく、明らかに挙動不審気味だった私を雪ちゃんが気遣ってくれたわけなのです。
「で?あの子、どんなこと言ってきたの?」
「それが・・・」
私は、小林さんとの会話をできるだけ正確に思い出しながら、その内容を雪ちゃんへと伝えていく。
「夏ちゃんの秘密ねぇ~?」
「・・・・・」
「う~ん・・・」
「・・・・・」
私が抱える最大の秘密、それは、私がちょっと前までは男子として過ごしていたという事実。
「このことが、バレると思う?」
「う~ん・・・」
「仮にバレたとして、それはどんなルートでバレたんだろ?」
「・・・・・」
私が以前通っていた峰島中学校と現在通っている大葉中学校は、車で一時間掛かるか掛からないかくらいの距離にある。私と雪ちゃんの家の丁度中間地点が学区の境目であり、両校間の距離は近いっちゃあ近いんだけれど・・・。
「彩音ちゃんが、峰島中学に友達がいるって言ってたな・・・」
こっちの学校に転校したての頃に、確かそんなことを言っていた気がする。しかも、その友達がともちゃんの親友っていうオマケ付きで。
「住んでいる場所次第では、そんなこともあるかなぁ~。私と夏ちゃんみたいに親戚だったり、親の都合で隣の学区に引っ越しとかだってあるだろうしねぇ~」
つまり、小林さんには峰島中学の知り合いがいる?もしくは、彼女に近しい人の友達が峰島中学に?
「ゆ、雪ちゃん、どうしよう・・・」
「・・・・・」
「もしも、もしもこのことをバラされたら・・・」
「・・・・・」
もしもそんなことになってしまったら、私はクラスメイトの女子たちからボコボコの袋叩きにされコロコロされてしまうかもしれない・・・。
「着替えとか下着姿とか、モロに見てるし・・・。それに、連れションにだって行ったし・・・」
考えれば考えるだけ、恐ろしくなる。もしも私が逆の対場だったならば、私は自分たちの側に何食わぬ顔で潜んでいた紛い物の存在を許せるだろうか?
「夏ちゃん、落ち着きなって!!」
「でも・・・、でも!!」
「その小林って子が言ってるのが、そのことだとは限らないじゃん?」
うぅ~、でも・・・。
「とにかく、先ずは情報を集めないと。明日、それとなく探りを入れてみるからさ」
「雪ちゃん・・・」
結局その日は、それ以上の進展なく終わってしまった。そもそも私たちには何の情報もないのだから、それ以上進めようもなかったのだけれど。
「あぁ~、本当にどうしよう・・・」
雪ちゃんと別れ自分の部屋へと戻った私は、ベッドの上で膝を抱える。せっかく慣れ始めた女子としての学校生活は、一人の女子生徒によって危機的な状況を迎えていた。