第5話:蝉の声
その日の授業が全て終わり、熱血漢池田顧問による暑くて熱い部活動指導も終わり、僕たちは家路に就いていた。
「暑いな・・・」
「うん、暑いね・・・」
今の時間はもう十八時前。それにも拘わらず頭上の太陽は相も変わらずギラギラと輝いており、その凶悪な熱線を地上の僕たちへと無秩序にバラ撒いている。
「そういえば、あの件はどうなったんだ?」
「あの件って?」
「朝方知美が言ってたやつ。メイド服がどうのこうのって話」
「あぁ・・・」
その件なら、勿論お断りしました。僕たちは部活が忙しいからね、仕方ないよね?
「そっか、そいつは残念だ」
「は?」
「いや、おまえのメイド服姿、知美が写真撮って送ってくれることになっててさ。そっか、行かないのか」
「・・・・・」
いつもの爽やかスマイルの中に、若干の嗜虐的な笑みを混ぜて陽介は言う。
「おい、痛いって」
「この、このっ」
「ちょ、マジで痛いって?!冗談、冗談だからっ?!」
喰らえっ!必殺の脛蹴り!!いくら筋肉質な陽介といえども、ここの防御力はそこまで高くなかろう?くくく・・・。
「冗談はさておき、ここからはちょっと真面目な話なんだが」
「こんにゃろ、裏切り者めっ」
「おい、もうヤメろって・・・」
「くそがっ、このっ」
僕の必殺の脛蹴りを回避した陽介は、そのまま距離を取りつつ僕に語りかけてくる。その表情はいつもの三割増しほどキリっとしており、詰まる所ただのイケメン顔であった。チクショウ・・・。
「俺、部活辞めるわ」
え?
「俺、部活辞める。夏休みまでに池田先生と話して、サッカー部辞める」
は?
「今日も部活前に池田先生とちょっと話してさ・・・。部長のこととか、武井のこととか」
「・・・・・」
「正直な話、マジで面倒になっちゃって。部活の時もそうだけど、最近武井の奴がやたらダル絡みしてくるしさ」
陽介はそう言って、不満全開の顔を僕に向けてくる。
「そんなわけなんだけど、夏樹はどうする?このまま俺抜きで部活続ける?」
「え、いや・・・」
ど、どうしよう・・・。
「続けるのなら別に反対はしないけど、ただ、部長があの武井だからなぁ・・・」
「・・・・・」
「もしも辞めるつもりなら、一緒に池田先生のとこに行こうぜ?んで、放課後と夏休みは目一杯好きなことしよう」
「陽介・・・」
陽介は、今まで他人のことを悪く言うようなことはしなかった。そんな陽介がここまで言うなんて、武井君は僕の目の届かない所でも色々とやらかしていたのか?
「で、どうする?俺は明日の放課後にでも、退部届持って池田先生のところに行くつもりだけど」
「・・・・・」
未だなお太陽の日差しがキツい夏の夕方、僕たちは向かい合う。
「陽介、僕は・・・」
夏の蝉たちが競い合うように愛の歌を奏でるその空間で、僕は一つの決断をしたのだった。