第49話:脅迫
残暑の厳しかった名ばかりの秋も終わりを迎え、今は十一月の半ば。そんな肌寒いとある冬の日の昼休みに、私は呼び出しを受けていた。
「すみません、突然呼び出しちゃって」
「いや、それはいいんだけど・・・」
私を呼び出したのは、一年生の女の子。背中に掛かる黒髪を後ろで一つに束ね勝気そうな顔をしたその女子の名前は、小林 美乃里さんというらしい。
「ここは人が多いので、向こうで話しません?」
「・・・・・」
私と小林さんは人通りの多い廊下を抜け、そのまま階段を下って人通りの少ない体育館横の木陰へと移動する。うん、ちょっと寒いや・・・。
「それで、話っていうのは?鈴木君のことで、何か話があるんでしょ?」
「・・・・・」
努めて冷静に、私は対話を試みる。
「話っていうのは、その・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
空気が、重い。そして、寒い・・・。
「単刀直入に、訊いてもいいですか?」
「・・・・・、どうぞ」
「一色先輩って、鈴木先輩とお付き合いしてるんですか?」
「・・・・・」
う~ん、なるほどね?
「私と鈴木君は、付き合ってないよ。鈴木君と私は同じ文芸部員で、ただそれだけの関係だよ」
小林さんの質問に対して、私はありのままの事実を告げる。
「変な噂があったのは私も聞いてるけど、そんな事実は一切ないから。鈴木君は転校して来たばかりの私に親切にしてくれていただけで、それだけだから」
「・・・・・」
「そういうことなんだけど、大丈夫かな?」
「・・・・・」
私の答えに、小林さんは納得してくれるだろうか?できれば早く教室へと戻って、体を温めたいんだけど。
「九月の中頃だったかな、女子たちの間で先輩たちの噂が広まったのは・・・。一色先輩、知ってます?鈴木先輩って、女子たちの間で結構人気があるんですよ?」
そう言って私に鋭い視線を飛ばしてくる小林さんの顔は、マジだった。その眦はスっと細まり、彼女の表情は険しさを増していく。
「話は変わるんですけど、最近、鈴木先輩が色々と探ってるらしくて」
「え?探ってる?」
「何か、一色先輩についての変な噂を流した女子がいるんじゃないかって、文芸部の一年男子たちに色々と訊いて回っているらしいんですよ」
鈴木君、そんなことしてたのかぁ・・・。
「付き合ってもいない女子のために、そんなことまでしますかね?」
「えぇ・・・?」
「本当は、付き合ってるんじゃないですか?それで鈴木先輩に頼んで、自分たちの邪魔になりそうな女子たちを遠ざけようとしてるんじゃないですか?」
「・・・・・」
これは、どう答えるのが正解なの?雪ちゃん、鈴木君・・・、何か、余計話がややこしくなってない?!
「とにかく、鈴木先輩に変なことさせるのは今すぐ止めてください。でないと・・・」
「・・・・・」
「先輩の抱えてる秘密、学校中にバラ撒いてやりますから」
そう言って、小林さんは去っていった。
「私の秘密?バラ撒く?え?どゆこと?!」
その身に途轍もない爆弾を抱えるなんちゃって女子中学生な私は、遠くなっていく小林さんの背中を見送りながら激しく動揺するのだった。