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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第三章:秋の終わりと冬の訪れ
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第48話:冬景色

 季節は流れて、今はもう十一月の半ば。夏服だった制服は冬服へと変わり、首筋に掛かるくらいの長さだった私の髪の毛はついに背中に届く長さとなった。そうしてより一層見た目的に女子へと近付いた私は、内面的にも女子へと近付けた気がする。


 今までは苦痛で仕方のなかった女子たちとの明け透けな会話にも慣れ、彼女たちの着替えを見たってもう何も感じないし気にもしない。これは偏に雪ちゃんのサポートによるところが大きいのだけれど、何故だか全く感謝する気になれない。

 女子の体に慣れるためだとか言って私が入浴中のお風呂に素っ裸で入ってきたり、私の真っ平な胸を揉んだり逆に自分の胸を揉ませたり・・・。そんなセクハラ紛いのことを繰り返されるうちに、何かもうどうでもよくなってきたのだ。今なら雪ちゃんの裸を見ても鼻で笑えるし、胸を揉まれても逆に揉み返してやるくらいのことはできるしね。


 女子たちとの会話についても雪ちゃんや田辺さん、伊東さんたちとの遣り取りを中心に二カ月以上にも渡って鍛え続けてきたのだ。だから、今なら女子特有の猥談だってイケる。あぁ、私はもう汚れてしまったのだ・・・。

 イツメンでしょうもない下ネタ満載の動画の話で盛り上がっていたところを偶々通り掛かった新地君にドン引きされた時には、私も心が痛んだものだ。私のことを信じられないモノを見るような目つきで見てきた純真な少年のあの瞳を、私は生涯忘れることはないだろう。


 そんなわけで、私の新たな学校生活は思いの外上手くいっていた。ちょっとばかし私が思い描いていた女子中学生像からは離れてしまったのだけれど、それでも付け焼刃ながらに私はよくやっているなぁ~と自画自賛している今日この頃なのである。

 初めのうちは不安で不安で仕方がなかったのに、トイレの仕方や生理への対処の仕方にすら苦労していたのに。人間っていうのは存外慣れる生き物っていうか、適応力って凄いなぁ~っていうか。


 ただ、そんな私の新しい生活は、残念なことに全てが順調というわけでもなかった。表面上は上手く取り繕えているように見える私の女としての生活には、如何ともしがたい大きな問題が複数横たわっていたのである。


 そんな問題の一つ目が、何を隠そう幼馴染のともちゃんのこと。ともちゃんこと芦谷あしや 知美ともみとは八月の下旬に電話で罵られて以来、全く連絡が取れていない。私からは定期的にメッセージを送っているのだけれど、既読無視がず~っと続いているのだ。

 当然ながらその問題はもう一人の幼馴染である陽介も知っており、それを解決すべく彼も協力してくれている。しかしながらその努力は今に至るまで実ることはなく、今なおともちゃんの怒りを鎮めることは叶っていない。


 あの時、私がもっと早くともちゃんと連絡を取っていたならば、結果は変わっていただろうか?それとも、同じように電話口で罵られ、縁を切られていたのだろうか?

 今となっては、もう分からない。一つだけ確かなことは、今もなおともちゃんは私に対して怒り狂っており、その怒りが静まる気配がないことだけ・・・。


 陽介には、本当に申し訳ないことをしたなって思う。私の不義理のせいでともちゃんをこのような状態にしてしまい、あまつさえその直接的な遣り取りを彼に丸投げしてしまっているのだから。

 陽介にも、そのうち何かお礼をしないとなぁ~。来月にはクリスマスもあるし、何か陽介が好きそうな物を探しとくとしよう。


 さてさて、幼馴染たちとの問題はそんな感じなのだけれど、それ以外にも私が頭を痛めている問題はまだある。その問題とは、新地君のことである


 新地君とは私のクラスメイトの男子であり、私のことをチビだのチビ助だの言ってくる実に生意気なヤツなのである。ハッキリと言って、私にとってはただそれだけの存在であった。

 そんな新地君が何故私にとっての悩みの種なのかというと、う~ん・・・、これは何と言えばいいのやら・・・。


 事の切っ掛けは、私が文芸部部長である鈴木君とよく話すようになったことなんだけど・・・。ある日私が廊下で鈴木君と話していたら、何故か新地君が鈴木君に突っかかっていって・・・。

 その日を境に、新地君は鈴木君を目の敵にするようになったんだよねぇ・・・。雪ちゃん曰く、彼は私に惚の字らしいんだけど・・・。


「私、男子に興味ないんだよね」

「え?」

「私、女の子のことが好きっていうか」

「・・・・・」


 雪ちゃんのアドバイスを受けた私は、一度だけ新地君にそう言ったことがある。一緒に日直だった日に、何の前振りもなく唐突にそう宣言して、彼を困惑させたことがある。


「女が好きって、どういうこと?」

「どうもこうも、そのままの意味だけど」

「え?え?」

「・・・・・」


 残念なことに、新地君はまだお子ちゃまだった。良くも悪くもマセている女子たちとは違って、彼はまだ純粋でピュアな存在だったのである。


「雪ちゃん、何か、ダメだったよ」

「え?」

「新地君にちゃんと女の子の方が好きだって言ったんだけど、理解できてなかったみたい」

「・・・・・」


 まあ、新地君が私のことをどう思っていようとぶっちゃけ関係ないし・・・。この件は放置でもいいかな?

 自分でもちょっと酷いこと言ってるなって自覚はあるんだけど、人の身長のことを一々小バカにしてくる彼のことは正直好きじゃないし。それに、もう一つ厄介な問題もあるしねぇ・・・。


「一色先輩、ちょっとだけいいですか?鈴木先輩のことで、お話があるんですけど」

「・・・・・」


 今は十一月の中旬で、外はもう冬景色。そんなとある日の昼休み、二年生の教室にまでやってきた一年生の女子に私は呼び出しを喰らっていた。


「夏ちゃん、大丈夫?私たちも一緒に行こうか?」

「いや、大丈夫だよ、たぶん・・・」


 十月初旬に話したあの日以来殆ど顔も合わせていない鈴木君との問題も、残念ながらまだ継続中なのであった。

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