第47話:怪しい雲行き
従妹の雪ちゃんから鈴木君との距離感の件でお説教を受けたその翌日の放課後、私と雪ちゃんは図書室へと来ていた。そしてそんな私たちの目の前には、件の鈴木君がいた。
「ごめんなさい鈴木君。忙しいのに呼び出しちゃって・・・」
「いや、別にいいよ。僕もそこまで忙しいわけじゃないしね」
軽く頭を下げる私に、鈴木君はそう言って朗らかに笑う。
「それで、話っていうのは?」
私の足を、机の下で蹴り飛ばしてくる雪ちゃん。そして、そんな雪ちゃんの足を私も蹴り返す。
「えぇと、あのですね」
「うん」
「今後の話なんだけど、私、鈴木君から本を借りるの止めようかと思ってて」
「・・・・・」
あぁ、言っちゃった。言っちゃったよぉ・・・。
「それは、どうしてか訊いても?」
私は、誠心誠意説明した。鈴木君との遣り取りは、楽しかったこと。今まで全く興味のなかった本に、鈴木君との会話を通して興味が持てたこと。
一方で、その遣り取りが変な誤解を周りに与えてしまったらしいこと。そしてそれが、私たち二人にとって良くない影響をもたらしてしまうかもしれないこと。
「・・・・・。なるほどね?」
「「・・・・・」」
「ふむ・・・」
「「・・・・・」」
私の言葉を聞いた鈴木君は、眉間に皺を作りながら考え込んでいた。その顔は真剣そのものであり、温厚な彼にしては珍しく近寄りがたい雰囲気を発していた。
「その話は、大代さんが聞いたの?」
「え?」
「一色さんのことを悪く言ってる人がいるって話」
「まあ、そうだけど・・・」
鈴木君からの圧を受けて、雪ちゃんはらしくもなくビビッていた。
「正直な話、そんなくだらないことを言う奴のことなんてほっとけばいいって思うんだけど」
「「・・・・・」」
「僕たちは別に悪いことをしているわけでもないし、それなのに変な言い掛かりつけてくる奴に気を遣って僕たちがしたいこともできないなんて、それこそ意味不明じゃない?」
「「・・・・・」」
これは、ちょっとだけ予想外だ・・・。事前に雪ちゃんと話した時にはすんなりと話がつく想定だったのに・・・。
「ちなみに、その子の名前は分かる?」
「え?いや、そこまでは・・・」
「ふ~ん?そっか。それは分からないんだ?」
「「・・・・・」」
いつもは温厚で優しい話し方をする鈴木君が、怒っていた。そして、私と雪ちゃんはそんな鈴木君を前にビクビクと怯えていた。
「話の内容は解ったよ。そういうことなら、今まで通りの遣り取りだと確かに面倒だね」
「「・・・・・」」
「それにしても、陰でコソコソとあること無いこと言いふらすなんて、本当にゲスだな」
「「・・・・・」」
あの、雪ちゃん?何か、雲行きが怪しくない?
「最後に、一つだけ確認なんだけどさ」
「あ、はい、何でしょう・・・」
「一色さんは、僕のこと嫌い?僕と本の話をするのは、つまらない?」
「・・・・・」
雪ちゃん、どうしよう?!どう答えるのが正解なの?!
「鈴木君のことは、嫌いではないです。本の話も、つまらなくはないです」
「・・・・・」
「だけど、私は誰とも付き合っていないし、付き合うつもりもないので・・・」
「・・・・・」
考え抜いた末に、私はどうにかこうにかそれだけを絞り出す。
「そうか、答えてくれてありがとう」
「「・・・・・」」
「とりあえず、暫くは一色さんと会わないようにするよ。暫くの間は、ね」
「「・・・・・」」
最後に意味深な言葉を残して、鈴木君は去っていったのだった。