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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第三章:秋の終わりと冬の訪れ
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第46話:お説教

 全ての授業が終わり、帰りのホームルームも終わった月曜日の放課後の時間。私と従妹の雪ちゃんは、二人揃って家へと直行していた。


「はぁ~、今日も暑かったねぇ~~」


 家に帰り着くなり、雪ちゃんは鞄を放り投げて浴室へと突撃していく。そして、いつも通りそれを茫然と見送る私。


「もう、雪ちゃんったら・・・」


 今の時間は、午後十六時半くらい。伯母さんが仕事から戻るのにはまだ少しだけ早く、それ故に怒られる心配のない私の従妹は好き放題している。


「雪ちゃ~ん、着替え置いとくよぉ~?」

「おぉ~、サンキュ~~」


 床上に転がった鞄を雪ちゃんの部屋へと投げ入れ、彼女のタンスから替えの衣類を持ってそれを脱衣所へと持っていく私。


「いやぁ~、夏ちゃんは気が利くねぇ~~。将来はきっといいお嫁さんになれるよぉ~~」

「・・・・・」


 雪ちゃんと入れ替わるようにしてシャワーを浴び、そのまま洗濯物を洗濯機へとぶち込んで自分の部屋へと戻った私の視線の先には、傍若無人な従妹がいた。


「よぉ、待ってたぜ夏ちゃん」


 右手にアイスバーを持ちながら人のベッドの上で仁王立ちし、そう私に声を掛けてくる雪ちゃんに私は思わず頭を抱える。


「とりあえず座りなよ。これから夏ちゃんにちょ~っとばかり大事なお話があるからさ」


 そう言って雪ちゃんは私のベッドへと腰を下ろし、アイスバーを齧りながらその隣をパンパンと手で叩く。


「で、話って?」


 雪ちゃんの隣へと腰を下ろし、私は憮然とした表情のままでそう尋ねる。


「話っていうのは、お昼の続きなんだけどさ」

「・・・・・」

「夏ちゃん、知ってる?鈴木君ってさ、二年生の女子だけじゃなくて、一年生の女子からも人気があるんだよ」


 へぇ~、そうなんだ・・・。


「で、だね・・・。ここからが本題なんだけどさ・・・」

「・・・・・」

「最近、夏ちゃんに対する女子たちの視線が厳しいっていうか、これはウチのクラスの話じゃないんだけどさ」


 そこから先、雪ちゃんから聞いた話は私にとって青天の霹靂っていうか、全く想定してなかったっていうか・・・。


「夏ちゃんのこと、悪く言う子がいるんだよ。私の情報網によると、それは一年の女子らしいんだけどさ」

「・・・・・」

「その子、たぶん鈴木君のことが好きなんだろうね。だから、所謂嫉妬ってやつだよ夏ちゃん」


 私が、女子から嫉妬を?


「夏ちゃんてさ、男子の頃のままの感覚で鈴木君と接してるっしょ?」

「う、うん、まぁ・・・」

「たぶんだけどさ、鈴木君も夏ちゃんのことを女子として意識とかしてないと思うのよ。だからかなぁ・・・、余計にその距離感が危ういっていうか、変な誤解されてるっていうか」

「・・・・・」


 鈴木君とは、九月の初めに図書室で出会ったんだっけ。あの出会いは本当に偶然から生まれたものなんだけれど、女子たちに囲まれて疲弊していた私にとって彼との出会いは非常に有難いものだったんだよなぁ・・・。

 あの頃は今以上に女としての自分に馴染めなくて、一緒に行動していた雪ちゃんやその友達との距離感も分からなくて、だから温厚で理知的な男子であった鈴木君は一緒にいて居心地が良かったっていうか・・・。


「お昼の時も言ったけどさ、夏ちゃんが鈴木君のことが好きで、それであんな感じの付き合い方をしてるんなら別にいいんだよ。それはもう本人同士の問題だし、周りがどうこう言うことじゃないからさ」

「・・・・・」

「でもね?客観的に見て、夏ちゃんと鈴木君の距離感は恋人同士のそれっていうか・・・。だから、周りに変な誤解を与えちゃってるっていうか」

「・・・・・」


 学校という狭い空間で、クラスも性別も違うのに頻繁に会い仲睦まじげに会話する二人。それは周りから見たらつまりそういうことであり、そこに異論は挟めないらしい。


「私と鈴木君は、ただ本の話をしていただけで、それだけなのに・・・」

「うん、うん・・・」

「私、女子たちとどういった話をすればいいのか分からなかったから、だから・・・」


 だから、私は鈴木君に逃げていた。優しくて粗暴な感じが一切なくて、どことなく陽介と近い雰囲気を発していた彼に甘えていた。


「鈴木君に、悪いことしちゃったかな?」

「いや、どっちかというと、鈴木君の方が距離感バグってたかなぁ・・・」


 私が意図せず女子となってから、既に二カ月が経った。それでもまだ私の心は女子のそれからは程遠く、未だに男子的な思考が頭の中を支配している。

 そんな女子レベルゼロである私を、従妹の雪ちゃんは支えてくれている。私の拙い女子中学生としての学校生活を、彼女は精一杯サポートしてくれている。


「明日の放課後、鈴木君と話そっか?私も一緒に行くからさ」

「・・・・・。うん・・・」


 二人並んでベッドに座りながら、私たちは明日の流れについて話し合う。そんな私たちがベッドから立ち上がったのは、時計の針が十九時を回った後のことだった。

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