第43話:ヘッドスライディング!!
今現在の気温は、二十七度。お昼前には三十度を超える予定であり、本日もまた晴天なり。そんな暑苦しくて秋っぽさがいまひとつ感じられない九月末の土曜日に、大葉中学の体育祭は開催された。
「よっしゃーーっ!黄組、勝つぞぉーーーーっ!!」
「「「「「おおぉーーーーっ!!」」」」」
「俺たちこそが一番だぁーーーーっ!!」
「「「「「おおぉーーーーっ!!」」」」」
すごいなぁ~、皆元気だなぁ・・・。
前日の金曜日には先生たちの許可を得て、テント等の設営が終わった後も私たち黄組は居残って応援の練習を行っていた。黄組だけでなく、赤組と青組も居残って練習をしていた。
そんなわけで、体力には全く自信がない私は開始前から既に疲労困憊気味である。ついでに、イツメンの他三人も既に力尽き欠けている。
「ねぇ、夏ちゃん」
「何?」
「体が怠いから、もう帰っていい?」
「・・・・・」
ここ最近の一週間ほどは、ヤル気に満ち溢れた先輩たちによる指導の下昼休みや放課後にみっちりと体育祭の練習が行われていた。今の三年生たちの中にはお祭り好きが多いらしく、ヤル気が微塵も存在しない私たちとは違って滅茶苦茶張り切っていたのである。
「放課後は整列とか入場の練習だけって言ってたのに、何故かダンスと応援の練習まで始めるしさ。しかも、先生たちもそれを止めないし」
「・・・・・」
開会式を終えた私たちは、用意しておいたテントの中へと引っ込みそのままボケーっと外を眺める。
「最初の競技は、三年生たちによる・・・」
私たちの第一競技は、一年生たちの徒競走後に行われる障害物競争。最初の出番まではまだ少しだけ時間があるし、今のうちに少しでも体力を回復させておかないと・・・。
「三年生たち、元気だねぇ~」
「まあ、今年が最後の体育祭だから張り切ってるんじゃない?」
「これが終わったら、あとはひたすら受験勉強だもんねぇ~」
テントの影の中でボケーっとしながら三年生の競技を眺め、戻ってきた三年生たちからもっと声出して応援しろとドヤされながら泣く泣く声を張り上げて一年生たちを応援し・・・。
「続きまして、二年生たちによる・・・」
はぁ~、出番かぁ~。
「赤組には負けねぇ・・・。鈴木のいる赤組にだけは・・・」
新地君、まだ言ってるよ・・・。何故にそこまで鈴木君を目の敵にしているのやら・・・。
「そりゃあねぇ~?」
「???」
「「「うふふふふ」」」
「???」
ちなみに、新地君は一位でゴールテープを切ることとなった。彼はサッカー部所属で普段から走り回っているし、足の速さや体力面はそれなりだったから。
一方の鈴木君も、別の組で一位となった。彼は文芸部で普段そんなに動き回っている印象は無いのだけれど、元々柔道を習っていたらしいしスポーツは得意なのかな?
「ぐぬぬぬぬ」
「???」
先にゴール地点で待機していた新地君が、鈴木君に向かって「ぐぬぬ」している。ほんと、何やってるんだか・・・。
「それでは、次の競技者はスタート地点に着いてください」
お?次は私の番か・・・。
「夏ちゃん、頑張って!!」
「うん、ケガしないように頑張るよ」
一応、私も夏休み前まではサッカー部に所属していた。だから多少は動けるし、体力だって全く無いわけではないはずである。
「それでは位置に着いて、よーい、ドン!!」
スタートの合図とともに、私は走り出す。
「はあっ!はあっ!!はあっ!!!」
思っていたよりは、動ける。昨日の疲れが残っているため体は重いのだけれど、その割には動けている。
「よっしゃーー!一色、そのままぶちかませぇーーーーっ!!」
ゴール地点から、新地君の声が聞こえてくる。私の横にいた女子たちが、徐々に後方へと下がっていく。
これは・・・、もしかして行けるか?
心の中でそう呟きながら、私は小さな体を精一杯動かして最後の障害物へと突っ込んでいく。そして・・・。
「ぐはっ?!」
「「「「「あっ・・・」」」」」
「あぶっ?!」
「「「「「・・・・・」」」」」
障害物を躱すべく上げた私の足は、残念なことにそれを躱すことができなかった。足を引っ掛けたことにより大きくバランスを崩した私は無様にも顔から地面へとヘッドスライディングし、うぅ~、痛いよぉ・・・。
その後私は、慌てた様子で駆け寄ってきた保険委員たちによって救護テントへと引き摺られていった。私の大葉中学初の体育祭は、このようにしてしょうもない終わりを迎えたのだった。